第一百十八章 R―3―001
「R―3―001。」
透は、その番号を見た。
女も画面を覗き込んだ。
「R―3。」
「うん。」
「また、あの管理区分。」
「そう。」
「でも、001。」
透は頷いた。
これまで見てきたR―3―044よりも、ずっと古い番号だった。
透は記録の詳細を開いた。
「登録区分――旧照会関連業務。」
「名称は?」
「旧業務名称。」
「処理目的。」
「旧業務との互換性維持。」
女は黙っていた。
「これが根拠。」
「そう。」
「今の名前が業務名称として残っている理由。」
「うん。」
女は画面を見つめた。
「つまり、四年前に突然そうなったわけじゃない。」
「そう。」
「もっと前に、旧業務との互換性を残す必要が決められていた。」
「そう見える。」
透は登録日時を確認した。
四年前の名称変更より、さらに前だった。
「登録日は?」
女が尋ねる。
「五年前。」
「五年前。」
「うん。」
「じゃあ、名前が個人照会関連名称から業務名称に整理される前に、すでに互換性維持のための記録があった。」
「そう。」
女はしばらく考えた。
「先に理由があった。」
「うん。」
「その後で、名称の整理が行われた。」
「そう。」
「そして、その後に業務再編。」
「うん。」
女はノートに時系列を書いた。
五年前――R―3―001登録。
四年前――名称使用区分変更。
三年前――担当者異動。
一年前――業務再編。
二週間前――旧名称検索索引更新。
兄が南区に入った日――初回使用。
女は書き終えると、少し離れて眺めた。
「これ。」
「うん。」
「かなり長い。」
「そう。」
「兄の日だけを見ていたら、もっと短く見える。」
「うん。」
「実際には、何年も前から続いている。」
「そう。」
女はペン先で五年前の部分を指した。
「じゃあ、ここを見れば、今の仕組みがなぜ残っているのか分かるかもしれない。」
透は詳細を開いた。
R―3―001には、さらに関連項目があった。
「旧業務名称――登録あり」
「旧記録――保存継続」
「検索互換性――維持」
「個人識別用途――禁止」
「業務照会用途――継続」
女が言った。
「また個人識別は禁止。」
「うん。」
「最初から、完全に人を探すための仕組みではない。」
透は少し考えた。
「でも、昔は個人照会関連だった。」
「そう。」
「その記録を、今は業務照会として使っている。」
「うん。」
「だから、古い記録を見る人からすると、人の名前に見える。」
「でも、現在の管理上は業務名称。」
「そう。」
女は画面を見つめた。
「ここに、混乱する理由がある。」
透は頷いた。
「名前の意味が変わったのに、名前そのものは残った。」
「だから、過去の記録と現在の記録を同じ意味で読んでしまう。」
「そう。」
女はノートに書いた。
「名称継続≠意味継続。」
透はその言葉を見た。
「これも必要。」
「うん。」
その下に、女はもう一つ書いた。
「同じ文字列≠同じ対象。」
透は頷いた。
二人はR―3―001の関連履歴を開いた。
最初の参照履歴。
「参照目的――旧業務確認。」
次。
「参照目的――名称使用範囲確認。」
次。
「参照目的――検索互換性確認。」
次。
「参照目的――業務再編準備。」
女が言った。
「全部、名前について。」
「うん。」
「でも、本人確認は一度もない。」
透は確認した。
「ない。」
「個人情報照合も?」
「ない。」
「ない。」
女は静かに言った。
「それなら、この名前を追っても兄には直接つながらない。」
「そう。」
「ただ。」
「うん。」
「兄の日に、この名前が使われた。」
「そう。」
「だから、兄の日の処理にこの名前が出てきた理由だけは、別に調べる必要がある。」
透は頷いた。
「そこはまだ残っている。」
女は関連履歴を下へ送った。
そこで、別の項目が表示された。
「R―3―001――参照頻度増加。」
「いつ?」
透が確認する。
「一年前。」
女が画面を見る。
「業務再編の時期。」
「うん。」
「何のため?」
「旧記録検索対応。」
「それから?」
「外部照会受付対応。」
女は少し黙った。
「業務再編の後から、参照が増えている。」
「そう。」
「名前を使う処理が増えた。」
「うん。」
「それは、兄とは関係なく起きている。」
「そう見える。」
「でも、その増えた処理の中に、兄の日の処理も入っている。」
「うん。」
女は少し考えた。
「だから、兄の日だけ特別だったのか。」
「分からない。」
「通常の処理だったのか。」
「それも分からない。」
「ただ、通常の仕組みの中にあった。」
「そう。」
女は頷いた。
「これなら、どちらも残る。」
透は画面を見ながら言った。
「特別な処理だった可能性も。」
「うん。」
「通常処理だった可能性も。」
「うん。」
「今の記録だけでは決められない。」
女はノートに書いた。
「通常処理の中に、特別な目的が隠れることがある。」
書き終えてから、少し考え直した。
「……いや。」
「うん。」
「『隠れる』と決めるのも早い。」
透は頷いた。
「そう。」
女は線を引いて、その文章を消した。
代わりに、
「通常処理の中に、別の目的が存在した可能性は確認できない。」
と書いた。
透はその文字を見て、少しだけ笑った。
「そっちの方が正確。」
「うん。」
二人は再び画面に戻った。
R―3―001の一番下。
そこに、今まで見ていなかった項目があった。
「原記録――一部欠落。」
女が止まった。
「欠落?」
「うん。」
「何がない?」
透は詳細を開いた。
「旧参照先――記録なし。」
「参照した先がない?」
「そう。」
「消された?」
「書いてない。」
「じゃあ、最初から記録されていない可能性もある。」
「うん。」
女は画面を見た。
「ここで、また『空欄』。」
「そう。」
「空欄だから、消されたとは言えない。」
「うん。」
「でも、何があったか分からない。」
「そう。」
女は黙った。
しばらくして、透が言った。
「ただ、これは今までと少し違う。」
「何が?」
「欠落しているのが、旧参照先。」
女は画面を見た。
「つまり、昔どこを参照したのか分からない。」
「うん。」
「その参照先が分かれば、五年前に何を確認していたのか分かる可能性がある。」
「そう。」
「でも、今は追えない。」
「うん。」
女は画面を閉じようとした。
そのとき、透が止めた。
「待って。」
「何?」
「関連記録。」
画面の下に、
「旧参照先関連情報――一件」
と表示されていた。
女が振り向いた。
「まだある。」
透は開いた。
そこには、
「参照先区分――第七管理系統」
とだけ表示されていた。
二人は黙った。
「第七管理系統。」
女が言う。
「また出てきた。」
透は頷いた。
五年前の根拠記録。
そこに残っていた参照先。
それは、現在も使われている第七管理系統だった。
女が小さく言った。
「じゃあ、古い仕事と今の仕事が、完全に切れていたわけじゃない。」
透は答えた。
「記録上は、何かが継続している。」
「何が?」
透は画面を見た。
「それがまだ分からない。」
その下に、新しい項目が一つ表示された。
「第七管理系統――旧参照先対応履歴。」
登録日時は、
五年前。
R―3―001が作られた、
同じ日だった。




