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嘘の向こう側  作者: 亀


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第一百十四章 問い合わせ

「二時間前。」


女は、もう一度その日時を確認した。


透も画面を見ていた。


南区に入る二時間前。


外部からC―12へ、旧名称と現行業務の対応を確認する問い合わせが入っている。


その後、南区への入場。


さらに数時間後、別の外部照会受付。


一見すると、一本の流れに見える。


けれど、透はすぐには線を引かなかった。


「問い合わせの内容は分かる。」


「うん。」


「でも、問い合わせた人間は分からない。」


「記録対象外。」


「そう。」


「それに、問い合わせの対象も人じゃない。」


透は記録を指した。


「旧名称と現行業務の対応。」


女は頷いた。


「人を探したとは書いてない。」


「うん。」


「名前を使って何かを確認した。」


「そう。」


「でも、その名前が誰を指していたのかは、確認していない。」


透は黙っていた。


そのとき、女が一つ前の記録を開いた。


「これ。」


「何?」


「問い合わせ受付の詳細。」


そこには、


「受付区分――業務名称照会」


とあった。


「業務名称照会。」


透が読み上げる。


その下には、


「照会対象――旧名称」


「照会目的――現行業務対応確認」


「本人識別――対象外」


「個人情報照合――実施せず」


と並んでいた。


女は小さく息を吐いた。


「やっぱり人じゃない。」


「少なくとも、この処理では。」


「うん。」


透は続けて読む。


「回答方法――業務区分案内。」


女が言った。


「つまり、問い合わせに対して、今はこの業務です、と案内した。」


「そう見える。」


「誰が答えたかは?」


「記録対象外。」


「回答内容は?」


「業務名称のみ。」


女は画面を見た。


「名前しか返していない。」


「うん。」


「だから、この問い合わせだけでは、兄の所在とはつながらない。」


「そう。」


少し沈黙があった。


女は椅子に座った。


「でも。」


「うん。」


「兄が南区に入る二時間前に、昔の名前と今の仕事の対応を確認している。」


「そう。」


「偶然かもしれない。」


「うん。」


「誰かが必要になって確認したのかもしれない。」


「うん。」


「兄自身が関係していたかもしれない。」


「可能性はある。」


「でも、どれもまだ証明できない。」


「そう。」


女は頷いた。


「だから、次は問い合わせの後を見る。」


透も頷いた。


「回答後に、何が起きたか。」


二人は記録を進めた。


問い合わせの回答後、


「後続処理――なし」


と表示された。


女が言った。


「なし。」


「うん。」


「問い合わせた人は、その回答を受け取って終わっている。」


「記録上はそう。」


「別の処理に接続していない。」


「直接の接続はない。」


女は少し考えた。


「でも、その二時間後に南区。」


「そう。」


「さらに、その後に外部照会。」


「うん。」


「時間はつながっている。」


「でも、記録上の処理関係はつながっていない。」


「そういうこと。」


女は黙った。


しばらくして、彼女が言った。


「今までと同じ。」


「何が?」


「日付は一本の線を作る。」


「うん。」


「でも、記録は線を作っていない。」


透は頷いた。


「記録が示しているのは、点。」


「点?」


「その時間に、その処理があった。」


「それだけ。」


「そう。」


女はノートを開いた。


「日時一致≠同一案件。」


その下に、


「後続発生≠前処理の結果」


と書いた。


透はその文字を見ていた。


それから、問い合わせ記録の下にある小さな項目に気づいた。


「参照先。」


女が顔を上げる。


「何?」


「ここ。」


そこには、


「参照先――旧業務名称管理」


とあった。


「また別管理。」


「うん。」


「今度はどこ?」


透は詳細を開いた。


表示されたのは、


「管理区分――R―3」


だった。


女は黙った。


「またR―3。」


「そう。」


「じゃあ、C―12が問い合わせを受けて、R―3を見て答えた。」


「記録上は、その構造。」


「つまり、前に見たものと同じ。」


「うん。」


女は少し考えた。


「でも、R―3は兄の記録じゃない。」


「そう。」


「旧個人照会履歴も含んでいるけど。」


「同時に業務名称の管理にも使われている。」


「だから、ここも人に直接つながらない。」


透は頷いた。


「ただし。」


「うん。」


「そのR―3を、この日に誰かが参照している。」


女が画面を見る。


「参照者は?」


「権限制限。」


「また。」


「うん。」


「権限は?」


「M―2。」


女はしばらく何も言わなかった。


「C―12。」


「うん。」


「R―3。」


「うん。」


「M―2。」


「そう。」


「これまで見てきたものが、また出てくる。」


「そう。」


女は画面を閉じなかった。


「でも、まだ人が出てこない。」


透は頷いた。


「出てくるのは、役割と権限だけ。」


「担当者の名前は?」


「制限。」


「所属は?」


「C―12。」


「在籍者は?」


「複数。」


女は少し笑った。


「結局、また同じところに戻る。」


「うん。」


「権限一致≠操作者一致。」


「そう。」


二人は次の記録を開いた。


そこには、


「問い合わせ後、旧名称検索――一件」


とあった。


女が眉を寄せた。


「検索した?」


「うん。」


「さっき回答したのに?」


「回答する前の検索かもしれない。」


透が時刻を確認した。


「いや。」


「どうだった?」


「回答後。」


女は画面を見る。


「回答した後に、もう一度検索している。」


「そう。」


「何のため?」


透は詳細を開いた。


「検索目的――回答内容確認。」


「回答が合っているか確認した?」


「そう読める。」


「誰が?」


「分からない。」


「じゃあ、回答した人と、確認した人が同じかも分からない。」


「うん。」


女は黙った。


「確認する人と、確認される人。」


透が言った。


「同じとは限らない。」


女はノートに書いた。


「確認者≠回答者。」


その下に、


「回答記録≠回答者本人」


と書いた。


透は画面を見ながら、さらに下へ進んだ。


そこで、一つの項目が見つかった。


「確認結果――名称対応あり。」


女が言った。


「名称対応あり。」


「うん。」


「本人一致は?」


透が確認する。


「対象外。」


女は頷いた。


「また。」


「うん。」


「名称が対応していることだけ確認した。」


「そう。」


「人は確認していない。」


「そう。」


女は椅子の背にもたれた。


「じゃあ、あの日に何かが起きたとしても。」


「うん。」


「この問い合わせは、『人』を確認した記録ではない。」


「そう。」


「『名前と業務』を確認した記録。」


「うん。」


女はしばらく画面を見ていた。


「それでも。」


「うん。」


「兄がその名前を知っていた可能性は残る。」


「残る。」


「兄がその業務を調べていた可能性も。」


「残る。」


「誰かが兄を探すために、業務名を確認した可能性も。」


「それも残る。」


「でも。」


「うん。」


「この記録だけでは、どれも選べない。」


透は静かに答えた。


「そう。」


女はノートを閉じた。


「じゃあ、次。」


「何を?」


「この問い合わせをした外部側。」


透が彼女を見る。


「記録対象外。」


「分かってる。」


「追えないかもしれない。」


「それも分かってる。」


彼女は画面を指した。


「でも、外部入力の前に受付があった。」


「うん。」


「その前に原記録参照申請があった。」


「そう。」


「さらに、その前に旧名称検索があった。」


「うん。」


「そして、そのさらに前に、業務再編があった。」


透は黙っていた。


女は続けた。


「だから、兄の日だけを追うのをやめる。」


「どうする?」


「兄の日より前から続いている線を追う。」


透は少し考えた。


「名前ではなく。」


「仕事。」


「人ではなく。」


「処理。」


「そして。」


女は画面を見た。


「誰かが何をしたかではなく、何が先に存在していたか。」


透は頷いた。


その瞬間、画面の右上に小さな表示が出た。


「関連記録――業務再編前問い合わせ履歴」


二人は同時に画面を見た。


日時は、兄が南区に入る、


二週間前だった。

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