↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘の向こう側  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/590

第一百十三章 業務再編記録

「根拠区分――業務再編記録」。


透は、その文字を見た。


女も黙っている。


これまで何度も現れた「別管理」という表示が、初めて具体的な名前になった。


業務再編記録。


「これなら、何を見ればいいか分かる。」


女が言った。


「うん。」


透は記録を開いた。


最初に表示されたのは、


「再編対象――旧照会関連業務」


「再編後――現行所在関連業務」


だった。


女が言う。


「N―08からS―系統。」


「そう。」


「前に見た。」


「うん。」


その下には、


「再編目的――重複処理整理」


「旧記録――継続保存」


「旧名称――参照互換性維持」


と並んでいた。


女はゆっくり読んだ。


「重複処理整理。」


「うん。」


「旧記録は残す。」


「そう。」


「名前も残す。」


「そう。」


「でも、今の仕事は変える。」


「うん。」


女は少し考えた。


「じゃあ、名称が残っているからといって、昔と同じ仕事をしているわけじゃない。」


透は頷いた。


「そう。」


「逆に、仕事が変わっても、昔の名前を残す必要がある。」


「旧記録との互換性のために。」


「うん。」


女はノートに書いた。


「名称継続≠業務継続」


その下に、


「業務再編≠記録消失」


と書いた。


透は続けて記録を見た。


「再編時期――」


日付が表示された。


それは、兄が南区に入った日よりかなり前だった。


女が言った。


「じゃあ、この仕組みも前からあった。」


「うん。」


「南区の日に作られたものじゃない。」


「そう。」


「だから、あの日の出来事だけを見ると、全部が兄のために動いたように見えるけど。」


「実際には、以前から動いていた仕組みが、その日に使われただけかもしれない。」


「そう。」


女は頷いた。


「また同じ。」


「うん。」


「存在していた仕組み。」


「それが特定の日に使われる。」


「その日付だけを見ると、原因に見えてしまう。」


透は答えた。


「時間が近いことと、原因であることは別。」


女はその言葉を書き留めた。


「時間的一致≠原因。」


その下に、


「利用された仕組み≠そのために作られた仕組み」


と書いた。


透は少し考えた。


「これは、今までより重要かもしれない。」


「どうして?」


「兄がこの仕組みを調べていた可能性を考えるなら。」


「うん。」


「この仕組みが兄のために作られた必要はない。」


「最初からあった仕組みを、兄が見つけた。」


「そういう可能性もある。」


女は画面を見た。


「でも、兄が本当に調べていたかも分からない。」


「うん。」


「だから、そこも保留。」


「そう。」


二人は業務再編記録をさらに下へ送った。


次の項目は、


「再編前業務――N―08」


「再編後業務――S―系統」


「移行方式――段階移行」


「旧処理――分離保存」


だった。


女が言った。


「段階移行。」


「うん。」


「全部が一度に変わったわけじゃない。」


「そう。」


「古い処理と新しい処理が、しばらく並んでいた?」


透は記録を確認した。


「そういう状態。」


「だから、同じ期間にN―08とS―系統が存在していた。」


「うん。」


「それなら、兄が南区に入った日に両方の記録が出てもおかしくない。」


「そう。」


女は少し黙った。


「じゃあ、今まで『二つの仕事が同時に動いている』と思っていたけど。」


「実際には、移行期間だった。」


「そう。」


「古い仕事から新しい仕事へ移る途中。」


女は頷いた。


「だから、旧記録を見ながら新しい処理をする必要があった。」


「その可能性がある。」


「それが『引継ぎ前確認』。」


透は画面を見た。


「うん。」


「だから、前日の申請。」


「うん。」


「翌日の参照。」


「そう。」


「古い記録を確認して、新しい処理条件に合わせる。」


「そう見える。」


女は言った。


「それなら、兄の所在を探していたわけではなくても、兄に関係する情報がそこに入っていた可能性は残る。」


透は頷いた。


「そこは切れない。」


「でも、まだ分からない。」


「うん。」


業務再編記録には、さらに一つの項目があった。


「再編対象外――個人別判断」


女が止まった。


「また。」


「うん。」


「個人別判断。」


「そう。」


「これは前に見た。」


「引継ぎ対象外になっていたものと同じ種類。」


女は画面を見つめた。


「業務再編では、個人別判断は移していない。」


「うん。」


「つまり、仕事の手順は移した。」


「そう。」


「処理区分も移した。」


「うん。」


「参照条件も移した。」


「そう。」


「でも、前の担当者が個別にどう判断していたかは、移していない。」


「記録上はそう。」


女は少し考えた。


「じゃあ、同じ処理でも、前の担当者が何を見て判断していたのかは、新しい担当者には完全には分からない。」


透は頷いた。


「それが前に出てきた『引き継いだ仕事≠引き継いだ知識』。」


女はノートを開いた。


「そして、今回も同じ。」


「うん。」


「業務再編記録と引継ぎ記録が、別の場所で同じことを示している。」


透は少し考えた。


「同じことというより、同じ構造。」


「構造。」


「仕事は移る。」


「人の判断は別に残る。」


「うん。」


「だから、記録は続いているように見えても、判断の連続性は保証されない。」


「そう。」


女は黙った。


「それって、かなり大きい。」


「何が?」


「誰かが『前の担当者と同じやり方です』と言っても。」


「うん。」


「実際には、同じ判断基準を持っているとは限らない。」


「そう。」


「逆に、担当者が変わっても、同じ処理結果になることもある。」


「うん。」


「だから、担当者だけ追っても分からない。」


透は頷いた。


「仕事を追う。」


「そして、その仕事の条件を追う。」


「そう。」


女は業務再編記録をさらに下へ送った。


そこに、


「再編後確認――旧名称使用履歴参照」


とあった。


女が言った。


「また旧名称。」


「うん。」


「再編後に、昔の名前を確認している。」


「そう。」


「何のため?」


透は詳細を開いた。


「旧記録検索互換性確認。」


女は頷いた。


「やっぱり。」


「うん。」


「名前を残した理由は、人を残すためじゃない。」


「記録を探せるようにするため。」


「そう。」


「だから、名前が残る。」


「うん。」


女は画面を見た。


「でも、その名前を知らない人が見たら。」


「昔の担当者の名前だと思う可能性がある。」


「そう。」


「あるいは、今の担当者の名前だと思う可能性もある。」


「うん。」


「でも実際には、業務名称。」


「そう。」


女は少し黙っていた。


「それなら、兄が名前を追ったとしても。」


「うん。」


「途中で意味が変わっている。」


「そう。」


「同じ文字列なのに。」


「うん。」


「人。」


「業務。」


「旧業務。」


「現在業務。」


「参照名称。」


透は頷いた。


「全部、同じ文字列でつながる可能性がある。」


女は小さく言った。


「だから、名前を見るな。」


透は何も言わなかった。


その言葉が兄のものかどうかは、まだ分からない。


ただ、記録を見ていると、その意味だけは少しずつ理解できる。


名前は、情報への入口になる。


しかし、入口の向こうにいるものが、いつも同じとは限らない。


女は業務再編記録の最後まで進んだ。


最後に、


「再編後監査――未実施」


とあった。


透が画面を見る。


「監査されていない。」


「うん。」


「何が?」


「再編後の情報対応。」


女が言った。


「旧名称と新名称が正しく対応しているか。」


「うん。」


「旧記録が正しく検索できるか。」


「そう。」


「個人情報と業務名称が混ざっていないか。」


「うん。」


「それが、まだ監査されていない。」


透は詳細を開いた。


「監査予定――未設定」


「監査理由――業務継続優先」


女は黙った。


「業務継続優先。」


「そう。」


「だから、仕組みは動いている。」


「うん。」


「でも、その仕組みが正しく機能しているかは、別問題。」


「そう。」


女は画面を見つめた。


「つまり。」


「うん。」


「これまで見てきた記録は、全部『その仕組みの中で処理された』ことは示している。」


「そう。」


「でも、『その処理が正しかった』ことまでは示していない。」


透は頷いた。


「それが重要。」


女はゆっくりペンを置いた。


「成立した記録≠正しい情報。」


「うん。」


「処理された≠正しく確認された。」


「そう。」


「参照された≠理解された。」


「うん。」


女は最後に、


「業務継続≠情報の正確性」


と書いた。


そのとき、透が一つの記録に気づいた。


業務再編記録の最後から二つ目。


「再編後問い合わせ――一件」


女が振り向いた。


「誰から?」


透は開いた。


「外部。」


「また外部。」


「うん。」


「問い合わせ内容は?」


透は読む。


「旧名称と現行業務の対応確認。」


女は黙った。


「いつ?」


透が日時を確認する。


南区に入った日の、


二時間前だった。


女は画面を見た。


「二時間前。」


透は頷いた。


「うん。」


「兄が南区に入る二時間前に。」


「外部から、旧名称と現行業務の対応を問い合わせている。」


「そう。」


「その後、南区。」


「うん。」


「三時間後、外部照会受付。」


「そう。」


「さらに外部入力。」


「うん。」


女はゆっくり息を吐いた。


「今度は、少し近い。」


透は画面を見つめた。


それでも、まだ一つの線にはしなかった。


問い合わせの対象が誰なのか。


依頼したのが誰なのか。


その情報が何を意味したのか。


兄がそれを知っていたのか。


すべて分からない。


ただ一つだけ、新しい事実が増えた。


南区に入る二時間前。


外部から、


「旧名称と現行業務の対応」


を確認する問い合わせがあった。


そして、その問い合わせ先は、


C―12だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。