第一百十二章 受付
「外部照会受付――開始」。
透は、その記録を開いた。
開始時刻は、外部入力の十七分前。
受付方法は、
「業務窓口」。
受付区分は、
「外部照会」。
そして、その下に、
「受付対象――所在関連情報」
とあった。
女が言った。
「やっぱり、入力より先に受付がある。」
「うん。」
「誰かが先に照会を始めている。」
「そう。」
「その後に、情報が入力された。」
「そう見える。」
女は受付記録をさらに下へ送った。
「受付開始理由――外部照会依頼」
「依頼元区分――外部」
「依頼者情報――記録対象外」
透は画面を見た。
「依頼者は分からない。」
「記録対象外。」
「うん。」
「でも、外部から依頼があった。」
「少なくとも、そういう処理区分。」
女は少し考えた。
「依頼があったことと、実際に誰かが依頼したことは同じ?」
透は答えなかった。
女が自分で続けた。
「記録上は、外部からの依頼として受付された。」
「うん。」
「でも、依頼者本人の情報は残っていない。」
「そう。」
「なら、ここでも『記録された出来事』と『実際に起きたこと』を分ける必要がある。」
透は頷いた。
「そう。」
受付詳細には、さらに項目があった。
「受付内容――所在関連情報」
「確認対象――旧記録」
「照合方法――名称照合」
「本人確認――実施せず」
女が言った。
「本人確認なし。」
「うん。」
「ここでも。」
「そう。」
「受付する段階では、人を確認していない。」
「そう。」
「旧記録を確認するために、名前を使っている。」
「うん。」
女は少し黙った。
「じゃあ、最初から最後まで。」
彼女は指で画面を追った。
「受付。」
「うん。」
「名称検索。」
「そう。」
「業務名称として一致。」
「うん。」
「外部入力。」
「そう。」
「S―系統。」
「うん。」
「原記録参照。」
「そう。」
「Q―1。」
「うん。」
「C―12へ通知。」
「そう。」
女は顔を上げた。
「この流れでは、最後まで本人確認をしていない。」
透は頷いた。
「今見えている範囲では。」
「じゃあ、誰の所在なの?」
「分からない。」
「所在関連情報なのに?」
「うん。」
「対象が人とは限らない?」
透は画面を見た。
「少なくとも、業務名称も対象になっている。」
女は頷いた。
「じゃあ、『所在』という言葉だけでは、人の場所だと決められない。」
「そう。」
女はノートに書いた。
「所在関連情報≠人の現在地」
その下に、
「外部照会≠本人からの照会」
と書いた。
透はそれを見た。
「それも大事。」
「うん。」
受付記録の次に、
「受付後処理――旧名称検索」
と表示された。
その開始時刻は受付開始から三分後。
女が言った。
「早い。」
「うん。」
「受付して、三分後に名前を検索。」
「そう。」
「検索結果は?」
透は開いた。
「該当一件。」
「名称使用区分――業務名称。」
女は黙った。
「そして、その十数分後に外部入力。」
「そう。」
「つまり、外部から何かが来た。」
「うん。」
「受付した。」
「そう。」
「名前を検索した。」
「うん。」
「その名前が業務名称として一致した。」
「そう。」
「その後に、所在関連情報が入力された。」
「うん。」
女は画面を見つめた。
「でも、入力内容そのものはまだ見えない。」
「権限制限。」
「原記録を見ても?」
「原記録参照権限が必要。」
女は申請記録を思い出した。
「前日に申請されている。」
「うん。」
「つまり、誰かはこの外部入力を見られるように準備していた。」
透は少し考えた。
「申請対象が、この入力そのものだったかはまだ確認できない。」
「そうだった。」
「ただ、外部入力関連情報を参照する申請だった。」
「うん。」
女は頷いた。
「じゃあ、今のところ、時間の順番だけはかなり明確。」
透は画面を保存した。
「そう。」
「前日。」
「参照申請。」
「当日。」
「南区入場。」
「三時間後。」
「外部照会受付。」
「その十七分後。」
「外部入力。」
「翌日。」
「原記録参照。」
「さらにその後。」
「R―3、Q―1、C―12。」
女はノートを閉じた。
「でも、これを一つの事件だと決めるには、まだ足りない。」
「うん。」
「だから、次は受付の中身。」
透は頷いた。
受付内容には、
「依頼種別――所在照会」
とあった。
女が言った。
「所在照会。」
「うん。」
「誰かの場所を問い合わせた?」
透は首を横に振った。
「まだ分からない。」
「どうして?」
「『所在照会』は処理区分。」
「実際に誰の場所を問い合わせたかは別。」
「そう。」
「対象名称は?」
「権限制限。」
「名前?」
「分からない。」
「業務名称?」
「それも分からない。」
女は黙った。
「じゃあ、受付記録だけでは、対象が人か業務かも判断できない。」
「そう。」
女は画面を見た。
「でも、旧名称検索をしている。」
「うん。」
「検索結果は業務名称。」
「そう。」
「だから、少なくとも、この受付では業務名称が検索対象として使われた。」
「その可能性は高い。」
女は頷いた。
「じゃあ、兄の名前だったと考える必要はない。」
「うん。」
「むしろ、名前が業務名称として使われていたことの方が、今の記録には合っている。」
透は答えた。
「今のところは。」
女は少し考えた。
「でも、そうすると、一つ変なところがある。」
「何?」
「どうして所在照会で、業務名称を調べるの?」
透は画面を見た。
「それは、まだ分からない。」
「業務の所在?」
「可能性はある。」
「担当窓口の所在?」
「可能性はある。」
「旧業務の所在?」
「それもあり得る。」
女は頷いた。
「つまり、『所在』という言葉だけでは何も決められない。」
「そう。」
「場所の所在なのか。」
「うん。」
「担当業務の所在なのか。」
「うん。」
「記録の所在なのか。」
「そう。」
「管理主体の所在なのか。」
「そう。」
女は静かに言った。
「言葉が同じでも、対象が違う。」
透は頷いた。
「この記録では、それが繰り返されている。」
受付の下には、もう一つの項目があった。
「所在照会対象区分――旧業務情報」
女が画面を指した。
「旧業務情報。」
透は頷いた。
「人じゃない。」
「少なくとも、対象区分はそうなっている。」
女はしばらく黙っていた。
「じゃあ、南区に入った兄と、直接つながらない可能性が高くなった。」
「そう。」
「でも、まだ完全には切れない。」
「うん。」
「なぜなら、外部入力の内容が分からない。」
「そう。」
「その入力の中に、兄の情報が入っていた可能性は残る。」
「残る。」
「ただし、受付対象そのものは旧業務情報。」
「うん。」
女はノートに書いた。
「受付対象=旧業務情報」
そして、その横に、
「外部入力=所在関連情報」
と書いた。
二つの言葉を少し離して置いた。
「ここを混ぜない。」
「うん。」
「受付対象と入力内容は同じとは限らない。」
「そう。」
「検索対象と入力対象も同じとは限らない。」
「そう。」
「そして、処理結果と実際の出来事も同じとは限らない。」
透は頷いた。
「かなり整理できてきた。」
女は画面を見た。
「じゃあ、次は旧業務情報。」
「うん。」
「この受付が何を確認したかったのか。」
透は対象区分の詳細を開いた。
そこには、
「旧業務名称――権限制限」
「旧処理区分――N―08」
「旧管理区分――R―3」
とあった。
女が言った。
「N―08。」
「うん。」
「所在関連処理。」
「そう。」
「R―3。」
「旧照会回答。」
「そして、旧業務名称。」
「そう。」
女は画面を見た。
「つまり、この受付は、古い業務の情報を確認している。」
「うん。」
「新しいS―系統に入れるため?」
透は次の項目を開いた。
「処理目的――現行処理条件確認」
女が黙った。
「現行処理条件。」
「そう。」
「古い業務の情報を見て、今の処理条件を確認する。」
「うん。」
「それなら、外部照会の目的は、兄の所在ではない可能性が高い。」
「記録上は、旧業務情報の現行処理条件確認。」
「そう。」
女は画面を見つめた。
「じゃあ、南区に入った日と重なったのは。」
透は答えた。
「まだ分からない。」
「うん。」
「ただ、南区の出来事と同じ時間帯に、旧業務情報の確認処理が動いていた。」
「それは事実。」
「そう。」
女は頷いた。
「なら、次は現行処理条件。」
透はそこを開いた。
一行目。
「現行処理――S―系統」
二行目。
「旧処理――N―08」
三行目。
「変換条件――名称使用区分」
そして四行目。
「本人識別――対象外」
女は画面を見たまま、何も言わなかった。
しばらくして、
「また。」
とだけ言った。
透は頷いた。
「本人識別――対象外。」
女は小さく息を吐いた。
「この処理は、最初から最後まで人を特定するためのものじゃない。」
「今見えている範囲では、そう。」
「じゃあ。」
女は画面を指した。
「兄を探すために、この記録を追っていること自体が間違っている可能性がある。」
透は答えなかった。
その可能性は、最初からあった。
それでも、兄が残した言葉と、南区の日付と、外部入力と、古い記録が近接している。
完全に切り離すこともできない。
女は言った。
「でも、だからこそ。」
「うん。」
「兄が何を見ていたのかを考えるなら、人じゃなくて、この処理そのものを見る必要がある。」
透は画面を見た。
「次は、変換条件。」
「名称使用区分。」
「うん。」
「旧業務名称が、どうやってS―系統に変換されたのか。」
透はその項目を開いた。
表示されたのは、
「変換前――旧業務名称」
「変換後――業務名称」
「変換理由――業務再編」
そして最後に、
「変換根拠――別管理」
とあった。
女は画面を見た。
「また、ここ。」
透は頷いた。
同じ言葉が、何度も別の場所に現れる。
「変更根拠――別管理」。
「変換根拠――別管理」。
女が言った。
「同じ『別管理』が、今度は変換条件のところにもある。」
透はその表示を保存した。
「なら、ここに何かある。」
女は頷いた。
「今度こそ。」
二人は、変換根拠の参照先を開いた。
画面が切り替わった。
そこには、
「根拠区分――業務再編記録」
と表示されていた。




