第百八章 通知されたもの
「旧名称関連情報――更新あり」。
透は、その文字をしばらく見ていた。
通知先はC―12。
通知元はS―系統。
その間に、R―3がある。
女が言った。
「更新って、何が?」
「分からない。」
「記録が変わった?」
「そうとは書いてない。」
「じゃあ、通知された情報が更新された?」
「それも分からない。」
透は通知履歴を開いた。
「通知種別――業務連携」
「通知理由――参照結果反映」
「個人情報――含まない」
「旧記録――直接変更なし」
女が画面を見た。
「直接変更なし。」
「うん。」
「じゃあ、R―3そのものは変わっていない。」
「少なくとも、この記録では。」
「それなのに更新あり。」
透は頷いた。
「更新されたのは、別の管理情報かもしれない。」
「C―12側の情報?」
「可能性がある。」
通知の詳細には、さらに一行あった。
「反映対象――名称使用区分」
女が眉を寄せた。
「また名前。」
「うん。」
「でも、今回は個人名称じゃない。」
「業務名称。」
「そう。」
透はC―12側の記録を開いた。
そこには、
「旧名称使用区分――業務名称」
「更新理由――旧記録参照結果反映」
「個人情報照合――なし」
とあった。
女が言った。
「名前の区分だけが更新された。」
「そう。」
「人は変わっていない。」
「個人情報は照合していないから、そこまでは分からない。」
女は少し考えた。
「でも、少なくとも、この処理では人を確認する必要がなかった。」
「うん。」
「業務名称として使えることだけを確認した。」
「そう。」
透は通知時刻を確認した。
R―3の参照。
その数分後にS―系統で処理。
さらにその後、C―12へ通知。
一つの記録が、順番に別の業務へ渡っていた。
しかし、そこに人の名前は残っていなかった。
「参照者。」
女が言った。
「うん。」
「S―系統の人は?」
「M―2。」
「所属はS―系統。」
「そう。」
「C―12の人は?」
「別。」
「同じ人かどうかは?」
「記録上は確認できない。」
女はため息をついた。
「人が消えていく。」
透は首を横に振った。
「消えたとは限らない。」
「記録から見えないだけ?」
「そう。」
「それも分からない。」
「うん。」
二人はしばらく黙っていた。
透は通知記録をもう一度開いた。
今度は「通知後処理」を確認した。
「C―12側――旧名称検索索引更新」
「S―系統側――処理完了」
「R―3――変更なし」
女が言った。
「結局、R―3は変わらない。」
「そう。」
「S―系統も終わっている。」
「うん。」
「C―12だけが検索しやすくなった。」
透は画面を見た。
「そう見える。」
「でも、それが何のためなのか。」
「旧記録との互換性維持。」
「前に出ていた言葉。」
「うん。」
女は椅子に座った。
「じゃあ、この一連の処理は、兄が南区に入ったことを確認するために作られたわけじゃない。」
透は少し考えた。
「少なくとも、今回見つかった記録だけでは、そう言えない。」
「もともと存在していた仕組み?」
「その可能性が高い。」
「そして、兄が入った日に、その仕組みが使われた。」
「そう。」
「それだけ。」
「今は、それだけ。」
女は苦笑した。
「簡単じゃないね。」
「最初から簡単じゃなかった。」
「でも、最初よりは分かる。」
透は画面を閉じた。
「分かることと、分からないことが分かれてきた。」
「それも情報。」
「うん。」
女はノートを開いた。
今度は名前を書かなかった。
C―12。
S―系統。
R―3。
その三つを離して書いた。
そして、その間に矢印を一本だけ引いた。
S―系統
↓
C―12
その下に、
「通知」
と書いた。
さらに横に、
「人ではない」
と書いた。
透はそれを見ていた。
「それは大事かもしれない。」
「何が?」
「今まで、全部を人間関係として考えようとしていた。」
「うん。」
「誰が誰に伝えたのか。」
「誰が兄を見たのか。」
「誰が知っているのか。」
「でも、今回見えているのは、業務同士の通知。」
女は頷いた。
「誰かが誰かに教えたとは限らない。」
「そう。」
「システム上、必要な情報が次の業務に渡っただけかもしれない。」
「うん。」
「それなら、そこに悪意がなくても成立する。」
「そう。」
「逆に、悪意があったとしても、この記録だけでは分からない。」
透は頷いた。
「その通り。」
女はペンを置いた。
「じゃあ、次。」
「うん。」
「通知された『旧名称関連情報』の中身。」
透は再び検索画面を開いた。
「通知内容――詳細情報は別管理。」
女が笑った。
「また別管理。」
「うん。」
「今度はどこ?」
透は管理先を確認した。
表示されたのは、
「Q―1」
だった。
二人とも黙った。
Q―1。
分離後個人識別情報の参照管理。
以前、Q―1―117を見た。
旧個人照会履歴。
分離後。
原情報状態――不完全。
旧記録対応確認――対応情報不足。
そして、N―07、S―系統との関連情報。
女が言った。
「ここでQ―1が出てくる。」
「うん。」
「C―12からQ―1。」
「そう。」
「S―系統からQ―1。」
「うん。」
「でも、C―12とS―系統は直接つながっていない。」
透は頷いた。
「Q―1が間にある。」
女は画面を見た。
「分離された情報を管理する場所。」
「そう。」
「だから、今まで見えなかった情報がここにある可能性がある。」
「可能性はある。」
「でも、Q―1―117も中身は不完全だった。」
「うん。」
「じゃあ、ここを見ても、全部は出てこない。」
「そうかもしれない。」
透はQ―1の参照履歴を開いた。
そこに新しい記録があった。
「参照理由――通知内容確認」
「参照対象――分離後個人識別情報」
「本人一致確認――未実施」
女が画面を指した。
「また。」
「うん。」
「本人一致はしていない。」
「そう。」
「でも、個人識別情報を参照している。」
「そう。」
女は黙っていた。
「これは今までと少し違う。」
「うん。」
「名称を見るだけじゃない。」
「そう。」
「でも、兄本人だと確認したわけでもない。」
「そう。」
透は参照対象の詳細を開いた。
そこには、
「旧記録対応――不足」
「関連情報――あり」
「旧参照番号――空欄」
「分離理由――管理系統変更」
とあった。
女は「旧参照番号――空欄」を見つめた。
「これ。」
「うん。」
「前にも見た。」
「Q―1―117。」
「そう。」
「同じ状態。」
「旧記録に戻る番号がない。」
透は頷いた。
「完全な対応関係を作れなかった。」
「でも、関連情報はある。」
「うん。」
「だから、何かが残っている。」
「そう。」
女はしばらく考えた。
「兄の記録かどうかは分からない。」
「うん。」
「でも、誰かの情報が分離されて、その後も参照されている。」
「そう。」
「その情報が、今回の通知にも関係している。」
透は答えなかった。
まだ断定できない。
ただ、これまで別々だった記録が、
今度はQ―1という一つの管理系統を通して、
同じ方向へ向かい始めていた。
女が言った。
「ここから先は、人を探すんじゃない。」
透は画面を見た。
「情報が、どこで分かれたのか。」
「うん。」
「そして、分かれたあと、どこまで同じものとして扱われているのか。」
女は頷いた。
「それを見よう。」
透はQ―1―117の履歴を開いた。
最初に表示されたのは、
「分離処理――完了」
だった。
その下に、
「分離後再参照――一件」
さらにその下に、
「参照元――C―12」
と表示された。
透の指が止まった。
C―12。
今度は、C―12からQ―1へ。
そして、その記録は再びS―系統にもつながっていた。
女が静かに言った。
「同じ情報が、別々の仕事を通っている。」
透は画面を見つめた。
「でも、同じ人間を追っているとは限らない。」
「うん。」
「だから、まだ名前は見ない。」
女は頷いた。
「名前は、最後。」
透はQ―1―117の次の履歴を開いた。
そこには、短い一行だけが残っていた。
「分離後情報の再結合――実施せず。」
二人は、その文字を見たまま動かなかった。




