第一百五章 所属
「C―12。」
女は、その文字をもう一度読んだ。
「原入力を見た人が、C―12に所属している。」
「記録上は。」
「でも、名前は分からない。」
「うん。」
「役職も?」
「今の画面では出ていない。」
「担当期間は?」
透は詳細を開いた。
「参照者区分――登録あり。」
「所属――C―12。」
「権限――M―2。」
「氏名――権限制限。」
「在籍期間――権限制限。」
女は少し黙った。
「C―12の担当者一覧なら、前に見た。」
「うん。」
「その中から、この人を特定できる?」
「できる可能性はある。」
「じゃあ、やってみよう。」
透はC―12の担当者履歴を開いた。
そこには、複数の人間が並んでいた。
開始日。
終了日。
担当区分。
権限区分。
しかし、氏名は一部しか表示されない。
そして、原入力が参照された日付を見ると、その日にC―12の担当者は三人いた。
女が言った。
「三人。」
「うん。」
「一人じゃない。」
「そう。」
「じゃあ、また決められない。」
透は三人の権限を確認した。
一人目。
「M―2――なし」
二人目。
「M―2――あり」
三人目。
「M―2――あり」
女が画面を見た。
「二人いる。」
「うん。」
「どっち?」
透は参照時刻を確認した。
二人目の権限有効時間。
三人目の権限有効時間。
どちらも、その時刻を含んでいる。
女は黙った。
「二人とも可能。」
「そう。」
「でも、実際に操作したのは一人。」
「うん。」
「その記録は残っていない。」
「少なくとも、ここには。」
女は少し考えた。
「権限がある人が二人いる。」
「うん。」
「そのうち一人が操作した。」
「そう。」
「でも、どちらか分からない。」
「今の記録では。」
女はため息をついた。
「また人が消える。」
透は首を横に振った。
「消えたわけじゃない。」
「記録されていない?」
「正確には、別の目的の記録に残っている可能性がある。」
「J―3にはいる。」
「そう。」
「でも、操作履歴にはいない。」
「うん。」
「つまり、人の情報はある。」
「ある。」
「操作の情報もある。」
「ある。」
「でも、その二つが直接つながっていない。」
「そう。」
女はしばらく画面を見ていた。
「これも同じだね。」
「何が?」
「人と仕事が分かれている。」
透は頷いた。
「うん。」
「人はJ―3。」
「仕事はC―12。」
「操作はM―2。」
「そう。」
「入力はS―系統。」
「うん。」
女は指で画面を追った。
「一つの出来事なのに、記録は四つに分かれている。」
「場合によっては、もっとある。」
「それぞれを別々に見たら、別の出来事に見える。」
「そう。」
「でも、実際には同じ時間に動いている。」
「うん。」
女は少し考えた。
「じゃあ、誰かが全部をつなげようと思わなければ、つながらない。」
「そういう場合がある。」
「そして、つなげるには、それぞれ違う権限が必要になる。」
「うん。」
「だから、一人の担当者が全部を知っている必要もない。」
透は頷いた。
「むしろ、業務を分ける理由の一つは、そこにある。」
女は黙った。
それから、二人のM―2権限者を見比べた。
「この二人。」
「うん。」
「どちらもC―12。」
「そう。」
「どちらもM―2。」
「うん。」
「一人は、兄が南区に入った翌日に在籍していた。」
「二人とも。」
「そうだった。」
女は少し笑った。
「もう、日付だけじゃ足りないね。」
透も少し笑った。
「最初からそうだった。」
「でも、前は日付が重要だと思っていた。」
「今も重要。」
「ただ、日付だけでは足りない。」
「うん。」
女はノートを開いた。
「日時一致≠同一案件。」
透は頷いた。
その下に、
「権限一致≠操作者一致」
と書き足した。
さらに、
「所属一致≠知識一致」
と書いた。
透はその三つを見た。
「それは重要かもしれない。」
「どうして?」
「同じC―12にいても、見ている情報が同じとは限らない。」
「担当業務が違う。」
「権限も違う。」
「経験も違う。」
「引継ぎの範囲も違う。」
「うん。」
「だから、C―12所属というだけでは、その人が兄について知っていたとは言えない。」
女は黙った。
「じゃあ、白石も……」
透は女を見る。
「白石?」
「もしC―12に関係していたとしても、そこから兄のことを知っていたとは言えない。」
「うん。」
「名前を知っていることと、情報を見ていることも違う。」
「そう。」
「情報を見たことと、その意味を知っていることも違う。」
「そう。」
女は少し考えた。
「さらに、意味を知っていても、全体を知っているとは限らない。」
「うん。」
「結局、人は自分が見た範囲しか知らない。」
透は答えた。
「そうとは限らないけど、少なくともこの記録からは、そう考えるしかない。」
女は頷いた。
そのとき、透が二人の権限履歴を比較した。
一人目。
「M―2付与――前月」
二人目。
「M―2付与――当月」
女が言った。
「権限が付いた時期が違う。」
「うん。」
「当月に付与された方は、引継ぎのため?」
透は理由を開いた。
「権限付与理由――業務再編対応。」
女は黙った。
「もう一人は?」
「継続。」
「つまり、一人は以前からM―2を持っていて、もう一人は業務再編で追加された。」
「そう。」
「じゃあ、原入力を見た人は、引継ぎに伴って権限を得た人かもしれない。」
「可能性はある。」
「でも、以前から権限を持っていた人かもしれない。」
「そう。」
「まだ二人。」
「うん。」
女は画面を見た。
「二人を分ける方法はない?」
透は参照履歴を開いた。
「操作端末――記録対象外。」
「端末もない。」
「操作時刻はある。」
「でも二人とも勤務中。」
「そう。」
「IPは?」
「保存対象外。」
「認証情報は?」
「別管理。」
女が顔を上げた。
「別管理?」
「うん。」
「どこ?」
透は開いた。
「J―3。」
女は少し驚いた。
「またJ―3。」
「担当者個人情報と権限情報がある。」
「じゃあ、認証情報もそこ?」
「直接の認証情報ではない。」
「じゃあ、何?」
透は項目を読んだ。
「認証区分。」
「実際のログイン情報じゃない。」
「そう。」
「じゃあ、ここでも直接はつながらない。」
「うん。」
女は椅子にもたれた。
「本当に、全部が少しずつ分かれている。」
透は画面を閉じた。
「だから、一つの答えを探すより、どこまで分かるかを確認した方がいい。」
「兄が誰に会ったか。」
「まだ分からない。」
「誰が情報を入力したか。」
「分からない。」
「誰が原入力を見たか。」
「二人まで絞れた。」
「でも、一人にはできない。」
「うん。」
「何を見たか。」
「所在関連情報。」
「内容は?」
「まだ見ていない。」
女は画面を見た。
「じゃあ、次は原入力の内容。」
「そう。」
「でも、M―2の権限が必要。」
「うん。」
「今、私たちにはない。」
透は頷いた。
「そう。」
女は少し黙った。
「じゃあ、ここから先は、記録を見るだけでは進めない。」
「そういうことになる。」
「誰かに確認しないといけない。」
「うん。」
「でも、誰に?」
透は答えなかった。
C―12。
J―3。
M―2。
S―系統。
それぞれに担当者がいる。
しかし、誰に聞けば原入力の内容を確認できるのかは、まだ分からない。
女が言った。
「一番簡単なのは、C―12の担当者に聞くこと。」
透は首を横に振った。
「何を聞く?」
「原入力を見たか。」
「それだけでは、相手が答えられないかもしれない。」
「なぜ?」
「本人が実際に操作したとは限らない。」
「……そうだった。」
「それに、原入力の内容を見せられない可能性もある。」
「権限が必要だから。」
「うん。」
女は黙った。
「じゃあ、記録からはここまで。」
「今は。」
「また『今は』。」
「情報が増えれば、変わる。」
女は頷いた。
そのとき、透はJ―3の履歴に目を戻した。
二人のM―2権限者。
一人は以前から権限を持っている。
もう一人は、業務再編後に追加された。
その二人の間に、一つだけ違いがあった。
「引継ぎ確認――実施」
もう一人には、
「引継ぎ確認――未実施」
とある。
女が気づいた。
「これ。」
透は画面を拡大した。
「うん。」
「原入力を見た翌日に、引継ぎ確認をした人がいる。」
「そう。」
「でも、原入力を見た人と同じとは限らない。」
「うん。」
「それでも、ここまで来ると……」
女は言葉を止めた。
透も何も言わなかった。
二つの記録。
同じC―12。
同じM―2。
一つは原入力参照。
もう一つは翌日の引継ぎ確認。
それぞれ別の人間である可能性がある。
そして、同じ人間である可能性も残っている。
透は、その二つの記録を並べた。
「次は、引継ぎ確認の内容を見る。」
女は頷いた。
「何を引き継いだのか。」
透は画面を保存した。
人ではなく。
名前でもなく。
仕事でもなく。
今度は、
「引き継がれなかったもの」
を見ることにした。




