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嘘の向こう側  作者: 亀


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第一百三章 持ち込まれた情報

「誰が持ち込んだのか。」


その言葉だけが、画面を閉じた後も残っていた。


透はノートを開いた。


外部入力。


業務窓口経由。


過去記録照合。


旧名称検索。


業務名称照合。


そして、S―系統への登録。


一つずつ並べると、処理の順番は見えてくる。


しかし、最初の一歩だけがない。


情報を持ち込んだ者。


そこだけが空欄だった。


女が言った。


「入力した人じゃなくて、その前。」


「うん。」


「情報を渡した人。」


「そう。」


「そこに記録があるかもしれない。」


透は検索条件を変えた。


「外部照会受付――受付元」


結果は一件だった。


「受付元区分――外部」


「受付者――記録対象外」


「受付方法――窓口経由」


女が言った。


「また記録対象外。」


「うん。」


「誰が受付したのかも分からない。」


「この記録だけでは。」


「じゃあ、窓口そのものは?」


透は「窓口名称」を開いた。


表示された名称は、さっき見たものと同じだった。


ただし、その横に別の項目がある。


「窓口管理区分――C―12」


女が言った。


「C―12。」


「うん。」


「つまり、外部照会の入口はC―12。」


「少なくとも、この処理では。」


女は画面を見ながら言った。


「でも、そのC―12も人じゃない。」


「そう。」


「業務区分。」


「うん。」


「じゃあ、窓口にいた人間は別にいる。」


「J―3にある可能性がある。」


透はJ―3を開いた。


C―12に関連する担当者情報。


複数の記録が表示された。


一人ではない。


交代履歴もある。


その中に、入力が行われた日付と重なる担当期間があった。


女が身を乗り出した。


「この人?」


透は首を横に振った。


「まだ分からない。」


「担当期間が一致している。」


「うん。」


「C―12の担当者。」


「そう。」


「外部入力があった日。」


「そう。」


女は少し考えた。


「それでも、入力した人とは限らない。」


「うん。」


「受付を担当していた可能性があるだけ。」


「そう。」


「実際に入力したかどうかは別。」


透は頷いた。


「担当者情報と操作履歴は別だから。」


女は黙った。


しばらくして、画面を指した。


「じゃあ、操作履歴は?」


透はC―12の操作履歴を検索した。


結果は、


「個人操作履歴――保存対象外」


だった。


女が言った。


「また。」


「うん。」


「人を追おうとすると、そこだけ切れている。」


透は画面を見た。


「人を追うための記録ではないから。」


「でも、仕事は残っている。」


「そう。」


「誰がやったかは残らなくても、何を処理したかは残る。」


「その可能性が高い。」


女は少し考えた。


「それなら、担当者じゃなくて、次の処理を見る。」


「うん。」


「外部入力の後。」


透はS―系統の履歴に戻った。


入力後には、


「所在関連情報確認」


が続いていた。


その次に、


「照合処理――T―2」


とある。


そして、


「参照結果――関連情報あり」


だった。


女が言った。


「ここ。」


「うん。」


「関連情報あり。」


「そう。」


「何の関連?」


透は開いた。


表示は簡潔だった。


「関連区分――旧照会履歴」


「関連番号――空欄」


「関連名称――旧名称」


「本人一致確認――未実施」


女は黙った。


「また。」


「うん。」


「関連情報はある。」


「そう。」


「でも、本人一致は確認していない。」


「うん。」


「つまり、この記録が兄のものだという証拠にはならない。」


「そう。」


女はため息をついた。


「ここまで来ても。」


透は答えた。


「でも、重要なことはある。」


「何?」


「この処理は、最初から人を確定するためのものではない。」


女は画面を見た。


「旧照会履歴を探している。」


「うん。」


「それを関連情報として使っている。」


「そう。」


「そして、本人一致は確認していない。」


「うん。」


「つまり、過去の情報を現在の処理に持ってきただけ。」


「少なくとも、この記録上は。」


女は黙った。


透はさらに詳細を開いた。


「関連情報取得方法――名称照合」


女が言った。


「また名前。」


「うん。」


「旧名称を使って、過去の記録を探した。」


「そう。」


「見つかったものを、関連情報として登録した。」


「うん。」


「でも、本人かどうかは確認していない。」


透は頷いた。


女はしばらく考えた。


「それなら、同じ名前の別人でも出てくる。」


「可能性はある。」


「業務名称になっていても。」


「そう。」


「昔の個人名称だったとしても。」


「うん。」


「途中で意味が変わっていても。」


「そう。」


女はノートを開いた。


「名称照合。」


その横に、


「本人照合ではない。」


と書いた。


透はその文字を見て、頷いた。


「これだ。」


「何?」


「今まで探していたもの。」


「名前と人の間にある違い?」


「うん。」


「名前は一致している。」


「でも、人は一致していない。」


「いや。」


透は少し考えた。


「人が一致しているかどうかを、そもそも確認していない。」


女は黙った。


その違いは小さかった。


しかし、意味は大きかった。


「本人ではない」と記録されているわけではない。


「本人である」とも記録されていない。


ただ、


「本人一致確認――未実施」。


それだけだった。


透はその一文を保存した。


「確認していないこと」と、


「違うと確認したこと」は、


同じではない。


女が言った。


「だから、まだ可能性は残る。」


「うん。」


「でも、可能性が残るだけ。」


「そう。」


「兄だと決める理由にもならない。」


「うん。」


二人はしばらく画面を見ていた。


そのとき、透が別の項目に気づいた。


「関連情報取得時刻。」


表示された時刻は、


外部入力の数分後だった。


女が言った。


「入力した直後に、旧記録を検索している。」


「そう。」


「じゃあ、入力された情報を確認するために過去記録を見た?」


「そういう可能性はある。」


「逆に、過去記録を見つけたから、情報を入力した?」


透は履歴の順番を確認した。


「時刻だけを見ると、前者。」


「つまり、先に外部情報があった。」


「そう。」


「その後で、過去記録を探した。」


「うん。」


「じゃあ、最初に持ち込まれた情報は、旧記録から得たものじゃない。」


透は頷いた。


「この履歴なら、そう見える。」


女は画面を見つめた。


「じゃあ、その情報はどこから来た?」


透は「外部入力」の詳細に戻った。


そこには、以前は見ていなかった項目があった。


「入力情報種別――所在関連情報」


女が言った。


「所在。」


透は黙った。


兄が南区へ入った日。


所在関連情報。


外部入力。


その後、旧名称検索。


そして、関連情報として旧照会履歴が登録されている。


一見すると、一つの流れに見える。


しかし、それでも人を結びつける証拠にはならない。


透は慎重に画面を保存した。


女が言った。


「所在関連情報なら。」


「うん。」


「誰かが誰かの居場所について伝えた可能性がある。」


「可能性はある。」


「兄についてだった可能性も。」


「ある。」


「別の人についてだった可能性も。」


「ある。」


「昔の記録についてだった可能性も。」


「そう。」


女は目を閉じた。


そして、静かに言った。


「結局、ここでも分からない。」


透は頷いた。


「でも、前よりは狭くなった。」


「どういう意味?」


「『誰かが何かを入力した』ではなくなった。」


透は画面を指した。


「所在関連情報として、外部から持ち込まれた。」


「うん。」


「その情報は、旧名称を使った照合につながった。」


「うん。」


「そして、本人一致確認は行われなかった。」


「そう。」


「だから、次に見るべきなのは、入力された内容そのもの。」


女が言った。


「でも、内容は非表示。」


「そう。」


「じゃあ、もう見られない?」


透は画面の下を確認した。


小さな項目が一つだけ残っていた。


「原入力参照――権限確認後に参照可能」


女が顔を上げた。


「参照できる。」


「可能性がある。」


「誰が?」


透は権限欄を開いた。


表示されたのは、


「M―2」


だった。


二人は同時に黙った。


また、同じ名前ではないコードが出てきた。


M―2。


原情報参照。


そして、今度は、


外部から持ち込まれた情報そのもの。


透はその画面を閉じなかった。


「次はM―2を見る。」


女は頷いた。


しかし、その直後。


画面の端に、新しい表示が出た。


「原入力参照履歴――一件」


透の手が止まった。


女が小さく言った。


「誰かが、もう見ている。」


透はその履歴を開いた。


そこに表示された日時は、


兄が南区へ入った日の翌日だった。

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