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嘘の向こう側  作者: 亀


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第一百二章 外部入力

「外部入力」。


画面に表示された二文字を、透は何度も見直した。


入力者――記録対象外。


入力日時――記録あり。


入力元――外部入力。


それ以上の情報はない。


女が言った。


「外部って、どこ?」


「この記録の外。」


「それじゃ分からない。」


「うん。」


透は詳細項目を開いた。


「入力経路――業務窓口経由」


「窓口?」


「そう。」


「さっきの業務名称とつながる?」


「可能性はある。」


「でも、直接連結はない。」


「うん。」


二人はしばらく画面を見ていた。


「業務名称」


「外部入力」


「本人申告」


「S―系統」


それぞれの言葉は、単独では意味を持っている。


しかし、それを一本につなげるには、まだ情報が足りない。


透は入力履歴を開いた。


一件。


二件。


三件。


同じ種類の入力が並んでいる。


しかし、すべて同じ人物とは限らない。


入力元はすべて「外部」。


入力者はすべて「記録対象外」。


そして、入力された内容そのものは表示されない。


女が言った。


「何を入力したかも分からない。」


「うん。」


「だったら、日時が一致したことしか残らない。」


「そう。」


「兄が南区に入った日。」


「うん。」


「この入力も同じ日。」


透は頷いた。


「ただ、それだけ。」


女は少し苛立ったように画面を見た。


「また。」


「また?」


「一致しているのに、何も決められない。」


透は答えなかった。


それは、ここまで何度も繰り返してきたことだった。


同じ日時。


同じ番号。


同じ名称。


同じ処理区分。


どれも手掛かりにはなる。


しかし、一つだけでは人間を特定できない。


女は椅子に座り直した。


「じゃあ、入力元を見よう。」


「うん。」


「外部入力にも種類があるかもしれない。」


透は「入力経路」を開いた。


表示された項目は三つだった。


「業務窓口」


「連携システム」


「手動受付」


女が言った。


「三つある。」


「うん。」


「今回の記録は?」


「業務窓口経由。」


「じゃあ、連携システムじゃない。」


「そう。」


「手動受付でもない。」


「記録上は、そうなっている。」


女は少し考えた。


「業務窓口って、さっきの業務名称と関係ある?」


透はC―12の記録を開いた。


そこには、


「外部照会受付――業務名称による受付」


とあった。


「関係している。」


女が画面を見る。


「じゃあ、この業務名称を通して外部から情報が入った。」


「そう読める。」


「誰かが窓口に情報を渡した。」


「可能性はある。」


「その情報を誰かが入力した。」


「うん。」


「でも、その誰かは記録対象外。」


「そう。」


女は黙った。


「じゃあ、兄が窓口に行った可能性は?」


透は首を横に振った。


「この記録だけでは分からない。」


「兄が誰かに連絡した可能性は?」


「それも分からない。」


「兄について誰かが連絡した可能性は?」


「それもある。」


「つまり、三つとも成立する。」


「記録上は否定できない。」


女は少し俯いた。


「本人申告って書いてあるのに。」


「そこが問題。」


透は「本人申告」の定義を開いた。


以前見た説明が表示された。


「処理開始時に本人に関する情報として受領された情報」


女が言った。


「本人が申告したとは書いてない。」


「うん。」


「本人に関する情報。」


「そう。」


「つまり、『本人申告』という名前が、実際の発言者を意味していない。」


透は頷いた。


「名前は処理区分。」


女は画面を見つめた。


「また名前。」


「うん。」


「名前が入口になる。」


「そう。」


「でも、その名前が内容を全部説明しているわけじゃない。」


「うん。」


女は小さく息を吐いた。


「分かった。」


透は入力履歴の一番下まで進んだ。


そこに、


「原情報確認――未実施」


と表示されていた。


女が言った。


「原情報を確認していない?」


「そう。」


「じゃあ、入力された情報を、そのまま使った?」


「この記録だけでは分からない。」


「でも、原情報確認が未実施なら、確認していない可能性はある。」


「うん。」


透はさらに開いた。


「原情報参照権限――M―2」


女が画面を見る。


「M―2。」


「うん。」


「また出てきた。」


「そう。」


「でも、参照履歴は?」


透は検索した。


表示されたのは、


「参照履歴――なし」


だった。


女は黙った。


「権限はある。」


「うん。」


「でも、参照した記録はない。」


「そう。」


「だから、原情報を確認できる人がいても、実際に確認したとは限らない。」


透は頷いた。


「権限≠操作。」


女はノートにその言葉を書いた。


そして、その下に、


「確認可能≠確認済み」


と付け足した。


二人はしばらく黙っていた。


外部から入った情報。


それを受け取る業務窓口。


業務名称。


S―系統。


本人申告。


しかし、本人が入力したとは限らない。


原情報を確認できる権限はある。


しかし、確認した記録はない。


その構造は、奇妙ではなかった。


むしろ、業務として考えれば自然な部分もある。


すべての入力について原資料を確認していたら、処理そのものが遅くなる。


だから、必要な場合だけ確認する。


必要がなければ、受領した情報を処理する。


その仕組み自体に、誰かの悪意を示すものはない。


女が言った。


「でも、こういう仕組みなら。」


「うん。」


「間違った情報も入る。」


「可能性はある。」


「悪意がなくても。」


「そう。」


「誰かが勘違いしていても。」


「入る。」


「誰かが古い情報を伝えても。」


「入る。」


「誰かが名前を間違えても。」


「入る可能性がある。」


女は画面を見た。


「そして、その後の記録だけを見た人は、それが最初から正しい情報だったと思うかもしれない。」


透は答えた。


「記録が成立したことと、最初の情報が正しかったことは別。」


女はその言葉を繰り返した。


「成立した記録≠正しい情報。」


透は頷いた。


「うん。」


そのとき、女が入力日時を指した。


「もう一つ。」


「何?」


「この入力の前に、何か別の処理がある。」


透は履歴を少し上へ戻した。


一つ前。


「業務名称照合」


その前。


「旧名称検索」


さらに前。


「外部照会受付」


女が言った。


「この順番。」


透は記録日時を確認した。


すべて同じ日だった。


だが、時間には数分ずつ差がある。


外部照会受付。


旧名称検索。


業務名称照合。


本人申告情報入力。


S―系統への登録。


女が言った。


「誰かが名前を使って受付して、その名前を検索して、それから情報を入力した。」


透は画面を見た。


「記録上は、そういう順番。」


「じゃあ、最初の外部照会で使われた名前が何だったか分かれば……」


「そこ。」


透は一つ前の記録を開いた。


「照会対象名称――旧名称。」


「表示内容は?」


「非表示。」


女が黙った。


「旧名称そのものは残っていない。」


「でも、検索結果は一件だった。」


「うん。」


「その一件が業務名称だった。」


「そう。」


女は考え込んだ。


「じゃあ、最初に誰かが旧名称を使った。」


「うん。」


「その名前を検索した。」


「うん。」


「検索結果として業務名称が出た。」


「そう。」


「その業務名称を通して、外部入力が入った。」


「可能性がある。」


「そして、その情報がS―系統に登録された。」


「記録上は、その流れ。」


女は画面を見つめた。


「これなら、名前から人を探す必要がない。」


「うん。」


「むしろ、名前を使った処理そのものを追えばいい。」


透は頷いた。


「そう。」


女はしばらく黙ってから言った。


「でも、一つ気になる。」


「何?」


「どうして旧名称だったの?」


透は答えなかった。


旧名称を使った理由。


検索の目的。


外部照会をした人。


入力された情報。


そして、その情報が兄に関係するのか。


まだ一つも確定していない。


透は履歴の最初まで戻った。


「旧名称検索」


その横に、


「検索理由――過去記録照合」


とあった。


女が言った。


「過去記録照合。」


「うん。」


「つまり、新しい情報を探したんじゃない。」


「過去に何があったか確認した。」


「そう。」


「その確認のために、旧名称を使った。」


女はゆっくり頷いた。


「だったら、最初から今の人を探していたわけじゃない。」


透は画面を見た。


「そうとは限らない。」


「どうして?」


「過去記録を確認してから、現在の処理につなげる場合もある。」


「……なるほど。」


「だから、過去を見ることと、現在の人を探すことは別。」


女はまた黙った。


そして、しばらくして言った。


「兄は、過去を調べていたのかもしれない。」


透はすぐには答えなかった。


「それも、まだ分からない。」


女は頷いた。


「うん。」


画面の履歴は、そこまでだった。


その先には何もない。


少なくとも、この管理系統には。


透は最後の記録を保存した。


「外部入力」


「業務窓口経由」


「原情報確認――未実施」


「旧名称検索――過去記録照合」


そして、その下に一行書いた。


「入力された情報の出所は、まだ不明。」


女はその文字を見た。


「また『分からない』。」


透は頷いた。


「でも、今回は少し違う。」


「何が?」


「分からない場所が分かった。」


女はしばらく透を見ていた。


それから、小さく頷いた。


「それなら、次はそこを探せる。」


透は画面を閉じた。


次に追うのは、


入力された情報そのものではない。


その情報を、


誰が、


どの窓口から、


どの理由で、


持ち込んだのか。


だった。

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