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嘘の向こう側  作者: 亀


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第百一章 分かれた先

検索結果には、二つの処理先が表示されていた。


「C―12」


「S―系統」


その下に、


「関連情報――Q―1」


とある。


透は、すぐには開かなかった。


同じ名前を入口にして、二つの処理先が存在する。


それだけなら、珍しいことではない。


一つの窓口から、複数の業務へ振り分けられることはある。


問題は、その二つが何を引き継いだのかだった。


女が言った。


「C―12は、前に見た。」


「うん。」


「N―07の後。」


「そう。」


「業務継続。」


「うん。」


「旧記録は分離保存。」


透は頷いた。


「S―系統は、所在関連処理から分かれた。」


「つまり、どっちも昔のN―07につながっている。」


「ただし、同じ処理ではない。」


「同じ名前を入口にして、違うところへ行く。」


「そう。」


女は画面を見た。


「じゃあ、名前だけで追ったら、途中で二つに分かれる。」


「場合によっては、もっと分かれる。」


「そして、それぞれの記録だけを見ると、自分のところにある情報だけで完結しているように見える。」


透は少し考えた。


「そう見える可能性はある。」


「でも、本当は別の系統にも続きがある。」


「そう。」


「それなら、情報が隠されているんじゃなくて、最初から分かれている。」


透は答えなかった。


それは、これまで何度も出てきた構造だった。


一つの記録に全てが入っているとは限らない。


一人の担当者が全てを知っているとも限らない。


そして、誰かが嘘をつかなくても、見る場所によって見える事実が変わる。


透はまずC―12を開いた。


表示されたのは、


「業務名称――旧名称参照」


「処理目的――業務継続確認」


「旧記録――分離保存」


「担当者情報――J―3」


だった。


その下に、


「個人識別情報――参照対象外」


とある。


女が言った。


「C―12では、人を見ていない。」


「少なくとも、この処理では。」


「仕事だけを見る。」


「うん。」


透は次にS―系統を開いた。


こちらには、


「処理目的――所在関連情報確認」


「旧処理――N―08」


「照合区分――T―2」


「本人申告――開始情報として使用」


とあった。


女が眉を寄せた。


「こっちは人に近い。」


「でも、本人確認とは書いてない。」


「うん。」


「『本人申告』も、前に見た。」


「本人が直接話したとは限らない。」


「そう。」


透は画面を保存した。


二つの記録は、同じ名前から始まっている。


しかし、一方は業務継続。


もう一方は所在関連。


同じ入口。


違う目的。


女が言った。


「これなら、兄が残したメッセージも少し分かる。」


「どれ?」


「『名前が同じなら、人も同じだと思うな。』」


透は頷いた。


「うん。」


「名前が同じでも、処理先が違えば、見ているものも違う。」


「そう。」


「逆に、処理先が違っても、同じ人に関係する情報が入ることもある。」


「可能性はある。」


「だから、別の記録に同じ人の情報が出てきても、それだけでは同じ記録だとは言えない。」


透は画面の「関連情報――Q―1」を開いた。


そこには、


「個人識別情報参照管理」


と表示されていた。


女が言った。


「またQ―1。」


「うん。」


「前のQ―1―117と同じ系統?」


「同じ管理系統。」


透は詳細を開いた。


「参照目的――引継ぎ前確認」


「原記録区分――旧個人照会履歴」


「旧参照番号――空欄」


「関連業務――N―07」


「関連処理――S―系統」


女は黙った。


「C―12は?」


透は確認した。


「関連業務――N―07」


「それだけ?」


「Q―1には、C―12への直接連結はない。」


女が言った。


「じゃあ、ここでも分かれてる。」


「うん。」


「N―07を中心にすると、C―12とS―系統があって、Q―1はS―系統側にある。」


「今の記録では、そう見える。」


「でも、C―12側にもJ―3がある。」


「そう。」


「J―3は担当者情報。」


「うん。」


「つまり、C―12は人を直接記録しない代わりに、担当者情報を別管理で持っている。」


透は頷いた。


「そしてS―系統は、Q―1を通じて個人識別情報に触れる。」


「でも、Q―1―117では、本人が誰かは分からなかった。」


「うん。」


女は椅子に深く座った。


「人に関する情報が、最初から別々の場所に置かれている。」


「そう。」


「仕事を見る記録。」


「うん。」


「担当者を見る記録。」


「うん。」


「個人識別情報を見る記録。」


「そう。」


「それぞれを合わせれば、何か分かるかもしれない。」


透は首を横に振った。


「合わせられるとは限らない。」


女が透を見る。


「どうして?」


「直接連結をしない設計だから。」


「……ああ。」


「J―3と業務記録は直接連結しない。」


「Q―1も、旧参照番号が空欄。」


「うん。」


「だから、全部をつなぐ共通番号がない。」


「少なくとも、今見えている範囲にはない。」


女は画面を見た。


「じゃあ、情報があるのに、つなげない。」


「そういうこともある。」


「意図的に隠しているわけじゃなくても?」


「うん。」


「管理上、分けている。」


「そう。」


女はしばらく考えた。


「それなら、誰かが全部を知っているとは限らない。」


透は答えた。


「むしろ、知らない方が自然な場合もある。」


「でも、誰かはつなげられるんじゃない?」


「権限があれば。」


「その権限を持っている人は?」


透はJ―3を思い出した。


「それも、人とは限らない。」


女が眉を寄せる。


「どういうこと?」


「前にM―2―Aを見ただろ。」


「担当区分。」


「そう。あれと同じで、管理上の権限区分が残っていても、それを実際に使った人間まで分かるとは限らない。」


「担当者個人情報はJ―3にある。」


「でも、実際に操作した人と、権限を持っている人が同じとは限らない。」


女は黙った。


「権限を持つ人。」


「実際に操作する人。」


「記録を見る人。」


「確認される人。」


透は一つずつ言った。


「全部、別になり得る。」


女は小さく息を吐いた。


「また、線が増えた。」


「うん。」


「名前の線。」


「仕事の線。」


「担当者の線。」


「権限の線。」


「個人情報の線。」


透は画面を閉じた。


「だから、一本の線にしようとすると、どこかで無理が出る。」


女はその言葉を聞いて、少しだけ頷いた。


「兄が何をしていたのかも、まだ分からない。」


「うん。」


「でも、少なくとも、兄が何かを調べていたとしても、それを一つの記録だけで確認するのは難しい。」


「そう。」


「だから、あの人は名前を見るなと言った。」


透は訂正した。


「それも、まだ分からない。」


女は一瞬黙った。


「そうだった。」


透はノートを開いた。


そして、さっきまでの記録の横に書き足した。


「同じ入口≠同じ処理」


「同じ処理≠同じ担当」


「同じ担当≠同じ権限」


「権限あり≠実際に操作」


「関連情報あり≠同一人物」


女がそれを見た。


「これ、最初よりずっと複雑になった。」


「うん。」


「でも、分からないものを分からないまま残している。」


「それが必要だから。」


女は何も言わなかった。


しばらくして、彼女が画面を指した。


「一つだけ、まだ見てない。」


「どこ?」


「S―系統の『本人申告』。」


透は画面を開いた。


「開始情報として使用。」


その下に、


「申告情報の取得元――外部入力」


と表示されていた。


女の表情が変わった。


「外部入力。」


「うん。」


「誰が入力したかは?」


透は開いた。


「入力者――記録対象外。」


「……。」


「入力日時だけ残っている。」


女は日時を見た。


そして、何も言わなくなった。


その日時は、


兄が南区へ入った日と、


一致していた。


透も画面から目を離さなかった。


一致している。


それだけだった。


誰が入力したのか。


何を入力したのか。


誰から得た情報なのか。


兄自身が入力したのか。


誰かが兄について入力したのか。


それとも、兄とは無関係の別の処理なのか。


まだ、何も分からない。


透は記録を保存した。


そして、その日時の隣に、


「一致――意味を確定しない」


と書いた。


女はその文字を見て、静かに言った。


「でも、次はここを調べる。」


透は頷いた。


「うん。」


今度追うのは、


名前ではなかった。


人でもなかった。


入力された情報が、


どこから来たのか。


だった。

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