彼女、料理がしたい
「志長くん! 今日は私が料理を作ってあげる!」
午前十時ごろに、そんなメッセージが燐華さんから届いた。
俺は嬉しさよりも、後々起こるである惨事に恐れていた。
正午になると、右手にスーパーの袋を持った燐華さんが、俺の家にやってきた。
「お邪魔しまーす」
何度も入り浸っているのに、礼儀よく家に上がる。
礼儀良くする前に、他にどうにかする部分があるだろ、と思うこともあるが、俺は黙っていた。
「じゃ、キッチン借りるねー」
燐華さんはキッチンの床に袋を置く。
「あー......。荷物から解放されたぁ......。幸せぇ......」
燐華さんはそう言いながら、食材を取り出していく。
「そういえば燐華さん。俺、燐華さんが料理してるところを見たことがないんですけど、できるんですか?」
「むっ……! 私が料理できないとでと思ってるの?」
「え……。は、はい……」
「ひっどー! 私、こう見えても料理はできるんだよ!」
食材を取り出し終えた燐華さんは、包丁を取り出した。
「まぁ、中学一年生の頃にやった調理実習は、成績が二だったけどね。でも、任せておいて!」
燐華さんが持つ包丁が、キッチンの照明で輝く。
俺はその光を見て、全身の血の気が引いた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 二ですか!? 本当に料理できるんですか!?」
「確かに、一般的な人よりはできないかもしれないけど……。それでも、最低限ならできるよ! だから、一じゃなくて二なんでしょ!」
「……ちなみに、その時の先生のコメントって覚えてたりしますか?」
「えーっと……。燐華さんはテストの成績が良くて、よく勉強していたことが分かります……」
「それ、テストで挽回しただけじゃないですか!」
テストの成績が良くて二の評価ということは、実習は壊滅的だということだ。
「……燐華さん。今すぐ包丁を置いてください。ここは、家庭科の成績が四だった俺が作ります」
「嫌だ! 今日は私が作るの!」
「いいから置いてください!」
俺は燐華さんから、慎重に包丁を取り上げようとした。
しかし、燐華さんは包丁を持ったまま、勢いよく背を向けた。
「危ない! 燐華さん危ないです! だから二なんですよ!」
「あーっ! 昔の家庭科の先生と同じこと言われたぁ! 私、あの時ショックだったんだよ! 嫌な思い出が蘇るからやめて!」
燐華さんは意地でも包丁を手放そうとしない。
これ以上燐華さんを説得しても、無駄になりそうだ。
「じゃ、じゃあ。俺も一緒に料理するので……。それでどうですか?」
「えっ!? そ、それなら……まぁ……」
燐華さんは少しだけ顔を赤くし、恥ずかしそうに言った。
燐華さんは共同作業と思っているかもしれないが、これは共同作業ではなく、見張りである。
「じゃ、じゃあ分担して作業しましょう。俺が食材を切るんで、燐華さんは調味料を混ぜたり、そういう作業をしてください」
「えぇー! 私だって切りたいよ!」
「燐華さんには、料理で重要な味付けを任せたいんです! 燐華さんを信頼しているので、一番重要な仮定をやってもらいたいんです!」
俺が適当にそれっぽいことを言って説得すると、燐華さんは少し考える。
「んー......。まぁ、志永くんがそこまで言うなら? やってあげてもいいけど......?」
こちらをチラチラと見てきながら、燐華さんが照れながら言う。
「......それじゃ、お願いしますね。......そういえば、何を作るんですか?」
「えーっとね、野菜炒め! 実は、美味しい野菜炒めの作り方を教わってね」
「野菜炒めですね。分かりました」
料理の確認ができたので、俺も準備に加担する。
必要そうな調味料や調理器具、調味料を混ぜるための皿を用意し、準備が完了した。
「それじゃ、俺は野菜を切るんで、燐華さんは調味料を混ぜてくださいね」
「りょーかい!」
燐華さんは啓礼すると、俺が用意した調味料に手を出し始めた。
そして、手始めに醤油を皿にドバドバドバドバドバドバ。
「......燐華さん。本当に作り方を教わったんですか?」
「.....実を言うとね、材料以外は全部忘れちゃった」
俺は即座にスマホを取り出し、レシピを検索した。




