第五章 九月下旬~十一月中旬 9
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蝶ネクタイ姿のウエイターが、注文を取りに来る。ニューハーフっぽくないごく普通のウエイターだった。ニューハーフクラブだから、全てニューハーフで構成されているわけではないとは、明美から聞いていた。
明美は、果物の盛り合わせとボトルを入れた。
客席は半分程の入りだった。まだ八時である。それで、半分なのだから繁盛していると言っていいのだろう。
「いらっしゃい、アキラです」
小太りのニューハーフが、春夫の隣に腰を下ろした。白いキャバドレス姿のアキラは、どこから見ても小柄でメタボ体形だった。目尻がさがり気味で愛嬌ある顔だちをしている。
豊かなバストの半分程が露出されている。
冴子が、「クックックッ」とアキラに視線を投げかけてアキラを笑った。
「ねえ、何よ。私、おかしい?」
「いえ、そんなことありません」
言いながら、冴子は笑いを止めることが出来ずにいる。
「失礼な子。まあ、いいわ。愛の対象外だから冷たくするわよ、なんて冗談。楽しんでって。瑠璃ちゃん久しぶり」
アキラは、身を乗り出すようにして左手で手を振った。
「ますます貫禄ついたじゃない」
「つかないわよ」
「最近どうなの?」
「相変わらずってとこかしらね。お客の入りとしてはね。ねえ、今日は、ママから是非にって頼まれたから、それとも、自分から懐かしくなったから」
「別にもったいつけるわけじゃないけど、どちらかと言えば、後の方。すごい有望な人が入ったんだって?」
「そう。ヒップホップを子供の頃から踊っていて、ジャズダンスは本格的に習ったみたい」
「でも、こうしたお店で踊るのは、初めてなんでしょ?」
「うん、だけど、履歴書に得意ダンスと書かれていたから、ママが、舞台でちょっと踊らせてみたらさ、うまいのにびっくり。即決」
「そんなにテクニックがあるわけ?」
「それは確かみたいよ。宍戸さんもすぐに認めて、こないださあ、ジャズダンスの基本ステップを私達の前で踊らせたんだけど、これからは、彼女を軸にした演出にするからな、って意思表示にも受け取れたわよ」
「宍戸さん、っていう方がショーの演出なさるんですか?」
冴子が、聞いた。
「そう、ショーの全てを牛耳っている憎き男。ねっ」
「うん、ママどこに行ったのかしら」
明美が、急に立ち上がった。その立ち上がり方が、随分と不自然に春夫には思えた。アキラの言葉をはぐらかすかの動きにも思えた。
もしかして、明美のいろいろの元凶は演出家の宍戸という人だったのか、と春夫は思った。




