第五章九月下旬~十一月中旬8
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パエリア専門店「ミリー」からラウンジスリーまでさほどの距離ではなかった。新宿二丁目というプレートがビルに貼られた道に入って数分で着いた。小さなスナックなどが多い一角だが、ラウンジスリーは、比較的大きなビルの中の五階にあった。
ドアを開けると和服姿の美穂子ママが出て来た。男性が化粧をしたという印象は否めないが、ふっくらとした適度の頬の膨らみと目、鼻、唇のメリハリが、妖艶な色っぽさといったものを春夫に感じさせたのは事実である。
「待ってたわよ」
「ニューハーフクラブって所に一度行ってみたいっていうお友達同伴で来ちゃった」
「ひとりじゃ来づらかったわけ?」
ママは、明美を軽く睨んだ。
「そうじゃないけど」
「とにかく、来てくれて嬉しいわ」
そう言うと、美穂子ママは、三人を席に案内する。
「階段になってますから、おふたりさん、下向いて歩いて転ばないように注意してね」
背中を見せたまま、美穂子ママは赤いカーペットの上を前の方に移動していく。
ショーを観やすくするために十分な配慮がなされているクラブだった。席は、前の席と段差を設け、しかも、ジグザグになっている。
二列目の中央部の席に案内される。
「VIPのお客様用の席に、ご案内?いいんですか?」
「いいわよ。ちゃんと観てもらわないと評価も出来ないでしょう」
「そりゃあ、そうだけど。ママ紹介します。こちらフェルシアーノの同僚佐伯ハル君とカノジョの冴子ちゃん」
「ようこそ、いらっしゃいました。夢の世界にごあんなーい、って程でもないけどね、楽しんでいってくださいな」
春夫と冴子が紹介されるのにママは四隅に丸みを持たせた名刺を渡して挨拶した。
名刺には、「美穂子」と名前が書かれている。
「あとで電話で話した子、連れて来るわ」
そう言うと、美穂子ママは、入り口の方に戻って行った。
「想像したより広くて大きくて明るい」
春夫は、ラウンジスリーの店内を見渡しながら言った。席は十五席ほどがあり、余裕の造りだった。新宿でこれだけの店を経営していくのは、家賃だけでも大変だろうとつい思ってしまう。
「新宿のニューハーフクラブの中では、大箱、知る人ぞ知るの所なのよ」
明美が言った。




