第五章 九月下旬~十一月下旬 6
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「私、ルリちゃんです。これから行きます」
明美は、どこかに予約を入れた。
「ルリちゃん?」
「言ってなかったっけ?」
「一度聞いたけど教えてくれなかった」
「そうだった?忘れた。私の店での源氏名。瑠璃、ママが最初ルリって片仮名でしめしたんだけど、松田聖子の『瑠璃色の地球』が頭に浮かんで来て漢字にしてもらったの。行きましょう」
明美は、歩き出した。信号を渡り、細い道を通り抜けて広い通りに出る。向こう側に渡ると右側に進んで行く。
「ああっ、久しぶりの新宿、谷中とも神田とも違う空気。味の違いをはっきり、感じるのよね」
「分かる。私も名古屋から横浜の実家に帰ると空気が違うなって思う。実際に空気の成分も微妙に違うのかも知れないけど、景色の力が大きいと思う」
「景色の力?そうかもね」
明美は、冴子の言葉に同調する。
十分程歩いた場所に目的のお店があった。「ミリー」という名前のパエリア専門店だった。
ビルの二階への螺旋の階段を上って行く。
「こんにちは」
と言いながら明美は入り口のドアに取り付けられた太い金属製の棒を押した。
「随分、ご無沙汰だったじゃない、瑠璃ちゃん」
白いブラウスに臙脂のスーツ姿の女性が出迎えた。
「うん、なかなか来れなくてね」
「こちらにどうぞ」
一番奥の「予約席」のプラスチックプレートが置かれた窓際の席に案内された。
水が置かれる。
「新しいお店に入って同伴とか」
「違うわよ。私が今勤めているカンパニーの同僚の人とその彼女。こちら、ここのオーナー」
「よろしくお願いします。えっ、普通の会社に勤めているの?」
「そうよ。フェルシアーノって文房具の会社」
「ええっ、びっくり。ちゃんと勤めています?」
「あたり前でしょう」
「凄く優秀な営業マンじゃなくてレディです」
「わざとね。こちらいけずな男のハル君とそのカノジョ。このかっこいい女性は、ここのオーナー」
「いらっしゃいませ。お飲み物、何か?」
笑顔でオーナーが聞いて来る。
ワインを三つ注文する。
春夫は、ふたりを誘った明美の裏がどうにも気になる。それは、冴子も同じだった。
「裏って、すごく面倒くさいことじゃないんですか?」
ワインの乾杯が終わってすぐに冴子が明美に聞いた。




