第五章 九月下旬~十一月中旬 4
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「冴子ちゃん、おはよう」
見えない相手に明美は手を振った。
「夏休み前に言われた時は、余り乗り気じゃなかったし、一緒に行くとしても他の店にするつもりだったんだけど、どうせなら、素敵なショーをするラウンジスリーがいいかな、って思ったのよねーー親のどちらかを危篤にしちゃいなさい。ーー了解。じゃあ、ハル君、プライベートの話だからハル君でいいわよね、代わります」
「何とか金曜日の夜に実家の方に帰ることにする」
「おいしい亭大丈夫?」
「頑張る。いざとなったら、明美さんのアドバイス通りにする。やっぱり、お母さんを危篤にするのは縁起でもないから、するなら父親だけどね」
冴子は笑った。
携帯を切った春夫は、明美に思わず聞いていた。
「裏はないよね?」
「裏?私は、ふたりに華やかな夜の世界を味合わせてあげたいだけよ」
明美は答えたのだった。
立体駐車場の車を待つ人数は、ゼロになっていた。
「じゃあね」
明美は、春夫に手をあげて車に乗り込み、営業に出かけた。
その夜、冴子から春夫の携帯に連絡があった。
冴子も急に明美がふたりを招待すると言ったのに裏があることを考えていたのだった。春夫は、冴子には、ヒロタというニューハーフっぽい人間から幾度も会社に電話が掛かって来たことや社長室に呼ばれた明美が、ラウンジスリーに戻ることを否定したことなどについては話してあった。
「明美さん、心の底では戻りたいと思ってるんじゃない。だけど、やめる時、喧嘩したとかあって自分ひとりで行くとまた喧嘩になっちゃうのが怖くて私達をクッションに使いたいのかも知れない。私個人としては、明美ちゃんの自由を邪魔したくないけど、フェルシアーノ株式会社としては損失だよね」
「もちろん、困るよ。僕らをクッションに使うつもりで連れて行かなくても、ショーを観ているうちにまた踊ってみたくなるかも知れない。いろいろあって、のいろいろが最近になって解決した可能性もあるし」
春夫は、答えた。
美穂子ママからの電話の件がなければ、もっと素直にラウンジスリーのご招待を受けられたのに冴子と作るシナリオは、ネガティブな内容ばかりだった。
「明美さんがいなくなったら、ハル君的にも悲しく寂しいしね」
こんな時に冴子は、嫌な聞き方をして来る。
「茶化すな。それより、どうしようか、迷うよな。課長から、西野さんについて、何かあったら、速やかに報告してくれって言われてるんだよ」
「それは、必要ないんじゃない?ご招待は、あくまで個人的なことでしょ。明美さんにばれたら、怒られるかも知れないわよ」
「うん、確かに個人的なことだし、西野さんから、特別何か言って来たわけでもないし、報告しないが正解だろうな」
「そうよ。余計なこと言わない方がいい。とに角、私は、ラウンジスリー楽しみにしてるわ」
「おいしい亭は、本当に大丈夫?」
「オーケー取った。単なるバイトじゃなくて、副店長だよ、私」
冴子は、誇らしげに言葉を返して来たのだった。




