第五章 九月下旬~十一月中旬 3
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明美は、社長室に呼ばれた本当の理由を春夫に言わないままだった。春夫もあえて聞こうとしなかった。
五日が経ったこの朝、エレベーターの中は、久しぶりに明美とふたりだけだった。
「来週の土曜日、ラウンジスリーに冴子ちゃんと一緒に行かない?私がご招待する」
もうすぐ一階のフロワーに着くという時、明美が、言って来た。
余りに突然である。春夫は、びっくりした。巣鴨の自分の家に来た時も、冴子のニューハーフクラブに連れてっていうのを承知はしたけど、ラウンジスリーは、はっきりダメと言ったのに、どうして?口が半開きになったきり、明美と顔を見合わせる形になった。
「何よ。鳩が豆鉄砲食らった顔っていうのはこんな顔だったのね」
明美が笑う。
「いや、あれほど、ラウンジスリーに行きたくないって言ってたあなたが急にご招待とか言うからさ」
エレベーターの外に足を踏み出しながら春夫は答えた。
立体駐車場では、他社の人間三名ほどが列を作っている。
明美は、すんなり後ろにつかず、少し離れた場所で、
「心境の変化よ。冴子ちゃんに今、聞けない?大学のキャンパス歩いているかもよ。今週の土曜日でどうかしらね?」
冴子に携帯で伝えるようせっついて来たのだった。
春夫は言われるままに携帯を冴子に掛けたが、起きて間もなかった。
「何よ、こんな朝早くから」
と不機嫌である。
「朝早くからって、九時半だぜ」
「早い。私は、レポートで寝たの四時近くだったのよ」
「あのさ、西野さんが、ラウンジスリーに僕達をご招待するって。今週の土曜日」
春夫は、明美の言葉を伝えた。
「本当に?土曜日ね。行きたい、ご招待を絶対お受けしたい」
冴子の声のトーンは、俄然明るくなった。
「ちょっと待って」
春夫は、携帯を掌で覆い、「行きたいって」と明美に告げた。
「代わって」
言いながら、明美は、携帯を春夫から受けとった。




