第四章 八月上旬~九月中旬 33
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川上達夫のステンレスアートは、抽象的な作品と具象的とも言える作品が混ざり合っていた。抽象的な 作品は、形的には、どれも駅前広場とか街中に置かれているのがふさわしそうな作品である。具象的な作品は、皴がよったティーシャツ、バターを乗せた食パン、といった作品だった。中央の背の高いステンレスアートは、様々な大きさの半円状の形の物が、空間で重なり合っている作品だった。
抽象的な作品も当然ながら芸術性は高いのだろうが、よりピンと来るのは、具象性の方である。
黙って鑑賞して絵画と違い、「すごいよねえ」とか「このティーシャツの皴皴感よく出せるよねえなどと冴子と互いに言葉を交わすのも楽しかった。
川上まさえが、やって来て、「アナタ、夕子ちゃんの大学院のお友達とお連れの方」と言い、ステンレスアートの夫の川上達夫を紹介した。
「ああ、夕子ちゃんの。暑い中、ありがとうございます。ごゆっくりしていってください」
と、川上達夫は、にこやかに頭をさげた。
近くで見ると、実にたくましい体つきをしている。筋肉トレーニングをしているためなのか、ステンレスアートに取り組んでいる結果なのか。すっかり意識の外にあった人間が頭を掠めていった。明美の理想のタイプかも知れない。夏休み明けに会ったら、話すことになるだろう、と春夫は思った。
「これいい」
冴子が言ったのは、「四角いねじれた箱を持つ手」という題名が付けられて作品だった。箱のねじれ具合が絶妙で見飽きない造形だった。春夫も同感だった。
どれかひとつを選ぶとすれば、これを選ぶだろう、と思った。
「暑い中、ありがとうございました」
川上まさえが、出口で挨拶するのに
「あの川上さんの後輩、アザミ美術大学油絵科卒の人が、私の会社でデザイン担当しています」
春夫は、言った。
冴子から今回のパンフレットを初めて見せられた時、アザミ美術大学油絵科卒、という文字があり、矢野主任が確か同じ大学と思い、吉村係長にそれとなく聞いてみた。大学だけでなく、矢野主任も油絵科卒だったのだ。
「そうなんですか、幾つ位違うのかしら?」
「多分、六年位かと思います。矢野という女子社員で、うちのデザイン課にいて、大ヒット商品の絵柄を考案しました」
「そうなんですか。それってどんな商品なんですか?」
「ペンケースです。波と渦が入り混じっているような。大人の女性をターゲットにしたものです」
「波と渦が混じったようなペンケース?ひょっとして、ひょっとして」
川上まさえが、黒の大きなバッグの外ポケットからフェルシアーノの「大人女性のためのペンケース」を取り出した。
「これかな?」
「ああ、これです。開けるとフェルシアーノの文字があるはずです」
春夫は、言った。
「あります。いい感じだなあ、って確かレイハナで買ったと記憶してます」
「ありがとうございます。レイハナは、お得意さんです。もし、娘さんいらっしゃったら、動物の絵柄の文房具ポーチが近いうちに発売されますので、こちらもよろしくお願いします」
「娘はひとりいます。レイハナでもその商品扱うんですよね?」
「はい」
「フェルシアーノの動物の文房具ポーチ、インプットしました」
「花柄は、既に販売中です。すいません、営業しちゃって」
「いえいえ」
川上まさえは笑い、冴子の方に向かって言った。
「夕子ちゃんに元気で頑張るようにお伝えください」
「はい、伝えておきます」
冴子が、答えた。




