第四章 八月上旬~九月中旬 29
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「このふたり夫婦なんだけどね、私のお友達が、まさ江さんに中学時代に個人的に絵を習ってたんだって。今もお付き合いがあって、案内もらったんだけど、家族旅行と重なっちゃって出来たら行ってあげてって頼まれた」
「僕は、行けるよ。ご主人がステンレスアートで奥さんが絵画なんだ」
パンフレットには川上達夫の皴がよったティーシャツのようなステンレスアートと川上まさ江の風景画の写真が載っていた。
場所は、日本橋である。春夫の夏休みが終わる前の日に行くことになった。
「おいしい亭」から副店長にならないかという話がある、という話題の最中に「ごめん」と言いながら、冴子は佳ちゃんに携帯を入れた。
「五時、アアー、五時二十分にしてくれる?――えっ、会ったら話すわよ」
慌ただしく携帯を切ると「帰る」と言った。置き時計の針は四時を指している。
春夫は巣鴨駅まで送った。
「おいしい亭、どう思う?時給があがるのはいいんだけどね」
歩きながら、冴子は、春夫の部屋での話の続きをする。
「学業優先で考えるべきでしょ、当然」
「うん、本部にはっきり言ってみることにする。味噌カツ全国展開出来るかしらね?」
「僕は、味噌カツ好きだけどね」
春夫は答える。
「おいしい亭の味噌カツ丼は、名前の通り特別おいしいと思う。一度食べたら佐伯君絶対田病みつきになる」
冴子は熱く語るは、その言葉を聞きながら 春夫は、ふたりの関係が、今年の夏の休みも何事もなく終わる予感に包まれたのだった。




