第四章 八月上旬~九月中旬 22
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クリーム色のワンピースを着たショートカットの冴子だった。思い切り睨んでいる。
「えっ、どういうこと?」
「どういうことって言葉は、私が言いたいわよ」
「ハル君、この人が冴子ちゃん」
明美が囁くように言った。
「ハル君って――。そうなんだ。そういう関係なわけ?帰ります」
冴子がふたりの横を過ぎようとした時、明美が、前を遮った。
「ストップ、ストップ、ストップ。私、フェルシアーノで佐伯さんにお世話になっているニューハーフの西野明美と申します」
「えっ」
両腕を掴む明美の手を身体をよじって振りほどき、冴子は、数歩バックして目を見開いた。
「そう、紹介する。営業部の西野明美さん。おばあちゃんの原宿が、どうしても見たいっていうからさ」
「無理やり頼みました。暑いでしょう。中に入って話さない?」
「そうしよう。言ってくれれば、よかったのに」
春夫は、スラックスのポケットから慌てて鍵を取り出した。
冴子は、もう帰るとは言わなかった。すっかり納得した感じではないが、初めの興奮状態から少しは脱したかの様子に春夫はひとまず安心した。
キッチンには椅子がふたつしかない。どう座ろうか考えながら、冴子を落ち着かせるためにも冷たい飲み物だ。明美にはコーラ、冴子にはグレープスカッシュを入れる。グレープスカッシュは冴子の好きな飲み物で夏休み中にこの部屋に来ることを見越して用意しておいたのである。
「今日、帰って来るなんて言わなかったじゃない」
春夫は自分のコップにオレンジジュースを注ぎながら冴子に言った。
「驚かせようと思ったの?まさか、ニューハーフの人とデートしているなんて思わなかったわ。地蔵通りをふらっとして、そこから携帯入れようとしたけど、まさかふたりがデートしてるなんて。すれ違った時も、佐伯君、まるで気づかなかったわよね」
冴子はデートというフレーズを繰り返す。まだ、疑っているのか。
「私っておしゃべりな女だから、話に夢中になってたのよ。ごめんなさい」
明美が、冴子に謝った。
大好きなグレープスカッシュを冴子は、残り一センチ位まで一気に飲んだ。
「確認させてください。ふたりは付き合っていて、今日はデートじゃなかったのですか?」
冴子の目は笑っていない。




