第四章 八月上旬~九月中旬 15
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四畳半の畳の部屋である。リビング以上に女の子を感じさせる寝室だった。小さな窓に、紫色に白い線で家や水車が描かれているメルヘンチックなカーテンがかかっている。ドレッサーの上には化粧品が並び、その前に丸い椅子が置かれている。
ベッドは、セミダブルのサイズでピンクの下地にホワイトの華やか模様の洋がけが掛けられている。
「これ捲ってみようか?タオルケットの下に何があるでしょう?」
「色っぽいネグリジェか何かが出て来るわけ?」
「そんなもんじゃないわよ。色っぽいネグリジェの隣には朝脱いだインナーが」
「いい、このまま、このまま」
「ビビリ」
明美は、笑い
「ねえ、単なる押し入れっぽいでしょう?」
無地の唐紙を明美は指さした。
「違うの?」
「ジャジャーン」
明美が、左右の唐紙をそれぞれ開けると、普通の押し入れの形ではない。真ん中で完全に仕切られている。左側はギャビネットになって洋服がつるされる作りになっている。下の方に二段の引き出しがついている。
「よく、考えたわよねえ。左半分を押し入れにして右半分を洋服掛けと引き出しにするなんてグットアイディアよ。塗り絵は、二段の引き出しの下の段に収まっていた。
数冊を手に持つと
「アッチの方が落ち着けるんでしょう?」
明美は蛍光灯の紐をひっぱり寝室を暗くし、ダイニングに戻った。
「世界シリーズ、花」「世界シリーズ、建物」「世界シリーズ、庭園」などの塗り絵本をダイニングのテーブルの上に並べられる。
春夫は、塗り絵が大人の間で人気なのは知っていたが、書店でそうした本をめくったこともなかった。鉛筆のデッサン画のようなものであるが、実に細かく黒い線で描かれている。
「想像したよりすごい」
「そうお?子供の塗り絵みたいなの想像したんじゃない?」
「隣のページに見本があってそれと同じように色を塗っていけばいんだと思ったから」
「そういうのもあるわよ。高齢者施設で認知症予防にやってるなんてのは、構図も簡単で、そういう感じだと思う。私が、今、やってるのは中級レベル、この塗り絵は、こんな風に見本の写真がついているけど」
明美は、「世界シリーズ、花」のページの最初の方をめくって見せる。塗り絵に使われている花の写真が掲載されているが、「あくまで見本です。あなたの感性で色を塗ってください」の言葉が添えられていた。
「私が、今、はまっているのは、これね」
明美は、春夫に大判の一冊の塗り絵本を手渡した。




