第四章 八月上旬~九月中旬 16
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「塗り絵、素敵なファッション」と表紙に大きな文字がある。様々な洋服を着た女性達の姿があった。それもギャル風な若い子から高齢者まで年代もいろいろである。
「これは、見本も何もないの」
「ご自由に、か。配色のバランスがよくないといけないよな」
「ファッションセンスが試される感じ。塗ってから完成したのを見てだめだな、って思うとがっかりしちゃう」
「だけど、綺麗に塗ってるね。色鉛筆」
「大体は、ね。五十四色の色鉛筆セットを思い切って買った」
「五十四色?」
「うん、かなりの色をカバー出来るけど。塗り絵のハウツー本読んだら、水彩絵の具とかクレパスとかと併用することで、素敵さがアップすることもあるって書いてあったので、最近、挑戦してる」
「休みの日の二、三時間なんてすぐ過ぎちゃうね」
「そう思うでしょ」
尚も塗り絵本をパラパラめくっていたが、「そろそろ帰ろうか」という考えが春夫の頭をよぎった。それを察したわけでもないだろうが、「ちょっと、待ってて」明美が、寝室に再び向かった。
持って来たのは、一冊のアルバムだった。
「フェルシアーノに入ってから一度も観てないアルバム、特別に見せてあげる」
そのアルバムには、明美のニューハーフクラブでの写真が、貼られていた。
リクエストに応えたものだろうか。お客さんと並んで写る写真やらショーで踊る写真が何枚もあった。あでやかな着物姿もあれば、白のフリフリがついたビキニみたいな衣装を着けた姿もあった。
これって、と思った写真があった。肩の部分に鳥の羽が飾られたようなセパレーツの舞台衣装を着けてニューハーフ達が並んでいる。女性、それもかなりの美人と言える人間もいたが、無骨という言葉がぴったりのニューハーフもいた。顔も肩回りも脚の線もどこからどこまで男性という感じである。こちらは、実際の写真なので鮮明である。
春夫の視線が十四,五人並んだ中央で止まった。
傍らにいる明美の表情と見比べる。
「分かった?」
「これ?」
「あたり」
「やっぱり、センターで踊ってたわけだ?凄いじゃない」
「まあね。私のリズム感とか踊り、お店じゃ特別だったわよ」
それにしても、衣装を着てニューハーフ達が並んだ写真は、パピル東京上野店の佐野店長が見せたカラーコピーに実に似ている。明美のために否定したが、あれは、やはり、明美ではなかったのか。ラウンジスリーという名前が、春夫の頭にはっきりこびりついている。
「本当にラウンジスリーじゃなかった?」
「違います。佐野店長には、そこまで言わなかったけど、ラウンジスリーもショーでは有名なお店だったわよ。だけど、私のいたところの方が踊りのレベルとか高かったわ。ショーダンサーとして胸を張れるニューハーフが幾人もいたわよ」
「そんなレベルの高いお店でセンターを踊っていたのにやめたんだ。踊ることは好きだった?」
「モチのロンよ。それは好きだった」
だったら、なんで?
お客の中に精悍な筋肉質の男性がいたが、他のホステスに取られたとかだろうか。
得意客を取った取られたでニューハーフ同士が殴り合いの喧嘩をしたとかの記事を読んだ記憶が春夫の頭の中にあった。




