第四章 八月上旬~九月中旬 13
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「僕の率直な意見を言わせてもらえれば、せめて、九十パーセントの決意にならなければ、本格的検討はすべきじゃないと思うよ。それに、親に言うことかなあ。自分の子供が性を形的に変えることはショックのはずだよ」
「まあね。だけど、お前が希望するなら、という了承っていうの、それを取り付けておきたい気持ちが私の中に間違いなく存在するの」
締めにお茶漬けを頼んだが、春夫は、サラサラと胃に流し込むのに「チンチンは、明らかに邪魔な存在なのよ」とか「手術しても穴を広げるダイレーションが必要出し、体調が悪くなる人もかなりいるみたいなんだよねえ」とか明美のお茶漬けはなかなか減らなかった。明美は、性転換手術に関する自分の中の肯定と否定を独り言のように春夫に聞かせる。幾ら言われても春夫には答えを返すだけの知識がなかった。ヨシノで聞いた「反転なんとか」とか「結腸なんとか」とかも、ネット検索しないままだった。
「ああ、面倒くさい」
明美は、お茶漬けをかきこんだ。
「カラオケに行こうか?余り歌うエネルギーないけど」
「そうしよう。もう一度、ハル君としての意見言っとくよ。慌ててするな。今回の夏休みの里帰りは、OLとして普通に会社に勤めている報告を家族にする、それだけでいいんじゃないか」
春夫は、初めて自分のことをハル君と呼んで、自分の考えを言ったのだった。
アメ横近くのカラオケ店にふたりは入った。
ふたりとも営業会議の後の飲み会では、歌わなかった曲を披露した。
春夫は、井上陽水の「傘がない」とか五輪真由美の「恋人よ」を歌った。本当に気まぐれで、実家近くに新規のカラオケ店に父親と行った時、こうした曲を「俺は、昔の曲が好きなんだよな」と父親が歌ったのがこれらの曲だったのだ。それで、大した意味もなくひとりカラオケで練習したことがあったのだ。「やきとり一番」で、明美が、実家の話をしたせいかも知れない。
明美が聴かせてくれたのは、バラード調の曲だった。「時計をとめて」や「ウイスキーがお好きでしょ」をしっとりと歌い上げた。声はハスキーなのに醸し出す雰囲気には、女性の色気が十分過ぎるほどに溶け込んでいた。それなりに飲んでのカラオケである。十分な間隔を空けて歌うので曲数の割りに時間が経過した。
十時を回ったのに帰ることにした。
「送って行くよ」
「あら嬉しい」
「木川課長から言われたんだよ。谷中は、お寺が多いところだから、家まで送って行くように、って。ただし、部屋の中に入る必要はない、って続けた」
「ハル君、貞操の危機?お部屋に誘うわよ」
明美は、笑った。




