第四章 八月上旬~九月中旬 12
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「分からない。教えて」
「ヒント、服装。喜んだのよ」
「服装。それで喜んだのかあ。ひょっとして、男性の服装でサラリーマンしてるとか思ったとか?」
「あたり。そうなのよね」
「はっきり言ったんでしょう?」
「もちろん、女性名で女装して毎日OLしてるってね。それでも、二年半も帰ってなかったから、待ってる、って言ってくれたけどね」
「よかったじゃない」
四杯目の焼酎の梅干し割りをゴクリとすると春夫は言った。明美の顔もかなり赤くなっている。
「だけど、ハル君だけに告白する。社内の誰にもいっちゃ嫌よ。実家に帰ったら両親に決意と言ったらいいのかな、あることを伝えようかと思ってる」
明美が、言った。微笑みながらも、唇はぎゅっと閉じられている。
決意。これしかないのではないか。
「肉体的にも完全な女性の形になっちゃう宣言とか?」
「さすが、ハル君」
「手術をする意思を固めたわけ?」
「現時点で七十五パーセントかな」
「二十五パーセントは、決めかねているってことか」
「まあね。先月の飲み会で峰岸さんに言われる時点では、六十五対三十五だった」
「峰岸さんの言葉で十ポイントもあがったの?何か言われたっけ?」
「私が、勝手にそう受け取ったのかも知れないけど、女として男を受け入れながら、肉体的には、男の部分でも快感を得ている。そんな印象持った。要するにさ、遠回しにずるいって言われているような気がしたんだよね」
「考え過ぎ。それは、絶対に考え過ぎ。峰岸さんは、ずるいなんて考えちゃいないと思うよ」
「だけど、女として感じながら、男の部分も感じているのは間違いないしね」
「そうなんだ。女性ホルモン打っても勃起するわけ?」
「個人差があるみたいだけどね。私は半勃起ってとこ。それでも、オチンチンが快感を甘受しているのは事実なのよね。女性の気分で、でも、体は男性自身が快感を受け入れているわけ。矛盾してるわよね」
明美は、下を向いた。トランスジェンダーの人達は、皆、そうしたことを矛盾と考え、葛藤をしているのだろうか。福岡サテライト所長、峰岸の将棋の駒の形の顔を思い浮かべながら、春夫は思った。




