第四章 八月上旬~九月中旬 11
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「同級生。勉強が出来て、スポーツが得意。一番よくあるパターンよ。その男の子、体操教室に通っていたと記憶している。彼のこと考えだけで私、可愛い女の子の姿になっているの。ごく自然にそれを受け止めていたけど、自分って、周りの男の子と違うな、認識したと思う。だけど、頻度が上がって、空想の翼がどんどん大きくなった時は、恐怖を覚えたわね。これは、しっかり、記憶の中にある」
「異質の世界への第一歩を踏み出したわけだ」
「異質の世界、ウーン、同じ言うなら倒錯の世界って言葉の方が、今はワクワクするわね。倒錯、素敵なフレーズよね。大好き。それは、どうでもいいけど、まあ、あの時が、私のトランスジェンダーの幕開けの時だったんじゃないかしらね」
「悩んだ?」
「まるで悩まなかった、というのは嘘。こうしたことは人に言ってはいけない、と本能的に思った。皆そうなんじゃないかしら?私のお仲間には、随分悩んだ人もいてさ、小学生の高学年にしてリストカット人もいたわよ」
「親も分からなかったんだ?」
「トランスジェンダーであること?どうなんだろう?少なくとも、普通の男の子とは違うな、とは思っていたと思う。小学校の五、六年生の時、アネキが小さくなったからって着なくなったセーターとかやたら欲しがったりしてこともあったから」
「実際に着たの?」
「着たのもあった。可愛い柄の、ピンクが多い丸襟のセーター、私のお気に入りになったけど、中学生のアネキが、はっきり言ったわ。アンタおかしい、って」
明美は、山梨での少しのアルバイト生活の後、東京に家出同然の形で出て来て、ニューハーフクラブに勤めたことを春夫に話して聞かせた。実家に帰ったのは数回だったとも言った。
「テレビでニューハーフの人達が幾ら人気者になった時代でも、田舎に帰れば口さがないご近所さんもいるわけよ。ニューハーフクラブで息子が働いているってことは、出来れば隠したいことだと思う。だから、私が、夜の世界から足を洗って文房具会社に就職したって電話で言った時、母親から喜びが伝わって来るのを感じた」
「本当言えば、夜の世界で働くのも昼間の世界で働くのも同じ価値なんだけどね」
「そりゃそうよ。ハル君にここでクイズ。夏休みに帰るよ、と言った私に母親がひょっとして、と期待したことは何でしょう?」
「ひょっとして、と期待したこと?」
春夫は、これという答えは浮かんで来ない。




