第四章 八月上旬~九月中旬 7
7
「ひゃあ、あっつい」
まだ、午後の三時である。外に出れば、来る時と変わりない暑さが外気を満たしている。
「何とか、うまくいきそうで安心した」
「レイハナと違って、文房具売り場全体が、地味でしょう。そこが問題なのよね」
「西野さんの力で適度な華やかさを盛り込んであげてよ」
「了解。こっちからアイディア出していくこと考えます。超順調、私の営業トークもまだまだね」
「うちの課長だったら、ダメって言うと思うけどね」
「子守りの佐伯さん的には?」
「西野さん独特の流れの中でならば、時には許せる範囲かな、のレベル」
「理解が難しい説明ね。今度からは出来る限り使わないようにいたします」
「今日は、素直だねえ」
「たまには、ね」
明美は、色っぽい流し目をくれて春夫に微笑んだ。
電車が上尾の駅を出発した時、春夫は、スマホを取り出しデッキに出た。スマホで呼び出したのは、パピル東京上野店の佐野店長だった。
「フェルシアーノの佐伯でございます」
「やあ、こんちは。毎日暑いですな」
「本当に。これから、後一時間位かかると思いますが、お伺いしていいですか?」
「いいけど、何か儲け話持って来てくれはるの?」
「儲け話はこれと言ってないですけど」
「じゃあ、出かけようかな。アハハッ、冗談だけど、あなたが来るといつもワゴンの話だからな」
「すいません。今日は、ひとり連れて行きますから」
「誰?もしかして」
「ええ、店長お気に入りの西野を連れて行きます」
「そう、そりゃあ、嬉しい。待ってる、待ってる」
手のひら返しに佐野店長の声が弾んでいる。最近は、ワゴンと共にフェルシーノのコーナーを作ることを幾度も提案しているが、その都度、佐野店長が言って来るのが明美の同行だった。
リクエストに応えれば、ワゴン入りの方については、考えてもいいと言われたこともある。乗らなかった。明美を営業の道具に使ってのワゴン獲得は、プライドが許さなかった。今日は、直帰に切り替え、ふたりで飲みに行こうと計算した時、パピル東京上野店が都合のいい場所だったからだ。
「四時半過ぎにお伺いいたします」
時間を言い、席に戻った。
「直帰にするから」
「了解。それからは?」
「当然、これでしょう」
春夫は、コップを開ける動きをした。
「だよねえ」
「大丈夫だよね?」
「うん。たまには、ハル君とふたりだけでね」
「まだ、営業時間内。ハル君じゃないでしょう?」
「細かいわね。言い直すわよ。たまには、佐伯さんとふたりだけでね」
「よろしい」
「偉そうに、何よ」
明美は口を尖らせた。




