第四章 八月上旬~九月中旬 6
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「そうですね。何か勝負掛けないといけないし。ノルマは、ないですよね?」
山田副店長は、視線を戻した春夫に聞いて来る。
「ノルマとおっしゃいますと」
「月にこれだけ売らなきゃだめとか、最初にフェルシアーノさんの商品をこれだけ仕入れてくれとか」
「ありません。こちらからお願いするわけですから、ノルマなんてこれっぽっちも考えておりません」
「安心しました。気になったことは最初に聞いておいた方がいいと思って」
ほっとしたかの山田副店長に、『大丈夫だ、コーナーを作ってもらえるだろう』と春夫は安心したのだが、明美は違った。
コーナー獲得のポイントの上積みが脳裏に浮かぶのか、それとも、暑い最中一時間近くも電車で来たのだから、絶対、ゲットしなければの意識が働いたのか、さらに「花柄文房具ポーチ」の使い勝手の良さなどを熱く語って聞かせたのである。
ここに至って完璧にバレバレである。山田副店長は、口を半開きに明美を見つめ、 春夫が、ビニール掛けをしている女性達を見ると、先刻はひとりだったのが、三人の女性が明美に視線を投げ掛けている。
ふたりして残ったお茶を飲み干して春夫と明美はパイプ椅子から立ち上がった。
「ああ、ちょっと紹介しますので」
山田副店長が、漫画本にビニール掛けをしている女性達に言った。
春夫は、この部屋に二度入っている。二度ともビニール掛けの女性達がいたが、紹介されたことはなかった。山田副店長の女性達に対する配慮に違いなかった。
「こちらの男性の方が、これまでウチを担当していただいていた佐伯春夫さん、それから、こちらが次から担当になる西野明美さんです」
「よろしくお願いします」
「聞いちゃっていいですか」
一番年上そうな女性が明美に手の平を向ける。
「何でしょう?」
「西野さんって、ひょっとして、ですか?」
「はい、ひょっとして、です」
間髪入れず明美が答えた。
「やっぱりぃ」
複数の声が重なった。
「いつ気がついたのかしら?」
「最初の名刺交換の時からなんとなく。でも、超順調って言った時かな。トーンが跳ね上がって」
「そうそう」と今度は、急激にくつろいだ複数の女性の声が重なった。
「でも、きれい」「プロポーションも素敵」といった言葉に明美は、ニコニコと首を右に左に傾げて応えたのだった。
「じゃあ、これ以上盛り上がると、この人達なに言いだすか分からないので」
山田副店長が言って、ザワザワ感を背中に受けながら部屋を後にした。
「すいません、失礼なこと言って」
「かまいません。それより、フェルシアーノのコーナーよろしくお願いいたします」
「店長と社長にぶつけてみます」
グイッと前進する言葉を山田副店長はふたりに言ってくれたのだった。




