第四章 八月上旬~九月中旬 5
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ここから先は、春夫も聞いていない話だった。
「何か月かに一度オーナーが出て来る会議が開かれるんですけど、そこでこのままだと、文房具売り場をなくすことを検討せざるを得ないので、数字をもっと上げること考えてくれってなりまして。レイアウトを工夫したらどうかって社長が言ったんですけど、文房具って地味じゃないですか。地味同士を並べ替えてもって話で。それで、いろいろ考えていたら、以前、佐伯さんから言われたフェルシアーノさんのコーナーの話を思い出して連絡させていただきました」
「ありがとうございます。ぜひ、検討していただければと思います」
「目立つコーナーを作っただけじゃ意味ないので、それが数字につながるかどうかなんですよね」
「おっしゃる通りで。西野の方から最近うちのコーナーを取り入れた成功例をお話しさせます。同じ埼玉県です。店名は控えてね」
「はい」
明美は、返事をしたが、普通の「はい」とは、違う媚びが溶け込んだ「はい」だった。
気が付いたか、と山田副店長を見たが変化はなかった。
「佐伯さんが担当していて私に引き継がれた大きな店舗なんですけど、ひと月前かにうちのコーナーを目立つ場所に作っていただきました。ポップも立てていただきました。こちらでも置いていただいてますけど、『大人の女性のためのペンケース』二倍から三倍になりました。集中してもらえるから、当然といえば当然なんですけど、当社の製品の売り上げもグンと伸びました。それだけでなくて、その店舗の文具売り場全体が超順調になりました」
「超順調ですか?」
山田福店長はちょっと口を尖らせた笑みを作って明美の顔を見た。
「すいません、営業活動で使うべき言葉じゃないですよね」
明美は、笑った。「いや、いいです。確かにね、フェルシアーノさんのペンケースって特徴ありますよね」
山田副店長の口調は、落ち着いている。けれど、視線が心の揺れを隠し切れないでいる。話しながら、明美の身体のアチコチに素早く投げかけられ、さっと移動するのが、春夫にもはっきり見て取れた。
「ぜひ、前向きにご検討ください」
春夫の言葉に、明美も続く。
「真ん中あたりにダーンとコーナー作っていただければ、女性のお客さんが強い関心を持ってくれると思います」
春夫がちらりと漫画本にビニールカバーをしている女性達に視線を投げるとひとりがじっと明美の方を見ている。




