第三章 六月下旬~七月下旬 16
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山手線から降りる時、「巣鴨なんかに引っ越さないから安心してよ」という明美の言葉に春夫は、安心したが、家に帰って暖かなシャワーを浴びて、汗を流しても背中で押しつぶされた明美のバストの弾力ある感触が残っていた。
ハル君、ハル君かあ。明美にこう呼ばれるのも悪くないかも。
携帯の呼び出し音が聞こえる。冴子からだった。
「相変わらずのいいタイミングだねぇ。調度、パジャマ着終ったタイミング」
「営業部会で飲み会でしょう。もう帰っているだろうな、と思って電話したわけ」
「夏休みの真っ盛り、まだ、帰って来ないの?」
「来ないのよね。研究課題を大学の図書館で調べるのも関係してるんだけどね、おいしい亭が、私を手放してくれないのよ」
「まさか、夏休み中、ずっと名古屋ってわけじゃないだろうな」
「帰るわよ、もちろん。八月の十五日頃には帰るつもり」
「待ってるよ」
「うん、例のニューハーフの人、会社、続いているの?」
「続いているよ。今日二次会でスナック行ったんだけど、おっぱいギュッって押し付けられちゃった」
「嘘。ねえ、感じちゃったとか言わないでしょうねえ」
「言わないよ。だけど、女性ホルモンプラス豊胸の整形って話だったけど、Dカップ、弾力あった」
「切るわよ」
冴子は、演技とは思えない不機嫌さで言った。
「俺のことより、君は、どうなんだよ。おいしい亭のアルバイトなんて言って本当は熱心な助教と親密になりつつあるんじゃないか」
この前の電話で三十代前半の助教が冴子にやたら親切だという話を思い出して、春夫も言い返す。内心、少しばかり心配していることだった。
「やめてよ。これ以上話すと喧嘩になりそうだから、今日は切る、おやすみ」
冴子は、携帯を一方的に切ったのだった。
ふたりが、携帯で謝りあったのは、二日後の夜だった。




