第三章 六月下旬~七月下旬 10
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余り直接仕事に関わる話はしない、が飲み会での暗黙のルールである。だから、笑いが絶えないのだが、この日の飲み会は、普段顔を合わさないサテライトのメンバーからの明美への振りが自然と多くなった。
「あなたさあ、女性に恋したことないの?」
峰岸係長が、明美に聞いた。
「ないですよう」
「一度も?」
「はい、自信をもって言えます。単なる好きは、ありますけどね。佐和子ちゃんもそうだし、業務の女性達も皆好きよ」
「ニューハーフクラブで踊っていたんでしょう?」
大阪サテライトの小平サテライト長だった。
「ショータイムにね」
「可愛いヒップをエロっぽく振って踊っていたわけだ」
峰岸係長のこの言葉には「セクハラ」の声があがる。女性達の前では、飲む席でもこの辺りが限界だった。
「休みの日には、何やってるわけ?」
こんな質問も出た。金沢サテライト長の三好だ。
「ウーン」
ちょっと考え込む明美に代わって夏美が答えた。
「塗り絵、だよね?」
「ありがとう。そうなの、お部屋でひとり塗り絵をしてるの、私」
塗り絵?春夫が初めて聞いた言葉だった。そう言えば、営業の同行中に趣味の話は余りしていなかった。
「色鉛筆?」
「大抵はそう。パステルの時もあるわよ」
明美は、質問者の春夫の目を見て答えを返したのだった。
居酒屋での飲み会が終わった後は、カラオケに行く時もあればカラオケのあるスナックに行く時もあった。この日は、神田駅の西口から少し歩いた場所にあるスナック「ヨシノ」の方だった。業務の女性陣達と佐和子は一次会で帰るのが習わしでこの日も三田部長と共に駅の近くで別れた。
明美も「私は女子だから」と彼女達について行くそぶりを示したが、峰岸以下サテライトの人間「六月の時も帰っちゃったんだから今夜は付き合ってよ」と皆が引き止めた結果、二次会に参加となった。
ほんのり顔が赤くなっている明美は、「アルコールが回ると私お喋りになっちゃうのよね」と盛んに気にしながらヨシノに向かってついて来た。




