第三章 六月下旬~七月下旬 9
9
月一の営業会議の後は、いつもの如く近くの居酒屋で営業部全体の飲み会である。座敷に長いテーブルを連結させて座ることになる。
女子社員達は、中央部に座る。去年までは、端っこに座っていたのだが、「女性を大切にする部署だから」と三田部長の提案で中央部になったのだった。明美は、もちろん、佐和子と並んで中央部に座った。
木川課長は、毎回、いろいろな場所に座るが、三田部長は、いつもテーブルの真ん中に座る。「単に部長が、いい思いしたいがために女性を真ん中にと言ったのでは」の意見もあるが、女性達が嫌じゃなければいいだろう、と皆が受け入れている。
この日、次々料理と酒が出て来る中で、サプライズが起こったのは、真ん中あたりだった。
「忘れるといけないから」
と明美がバッグの中からリボンがかかった水色の小さな箱を持ち出したのだ。
「佐和子ちゃんの誕生日明後日でしょう。営業部女子会からのプレゼント受け取って」
「ええっ」
佐和子は、驚きながらプレゼントを受け取った。
男性陣のアチコチから、「ハッピーバースデー」の声が上がる。
「開けていいわよ」
という声に「じゃあ、男性の方には見せません」と言いながら長テーブルの下で包みを開ける。
「ああ、これ」
この日一番に違いない喜びの表情が佐和子から弾けた。
「明美さんに感謝してね」
業務の貫井夏子が言った。
「嬉しい。明美さん、ありがとう。でも、よく手に入れられたね」
「女子会の時、言ってたでしょう。しっかり、インプットしてたのよ」
「言ったっけ?忘れてた」
佐和子は、本当か嘘か分からないが、そう言って笑った。
「感謝してもらうわよ。佐和子ちゃんのために毎日のようにネットで調べて発売日を調べて、土曜日朝早くから並んで手に入れて来たの?」
「ありがとう」
佐和子は、泣きそうな顔になった。
「見せてよ」
男性陣の強い要望に佐和子が数秒見せたのはブレスレットだった。赤と紫、二本の曲線が絡み合う中に宝石のような光を放つ小さな粒々が見えた。
「ダイヤモンド?」
「違うわよ。女子会のプレゼントよ。そんなわけないじゃない」
「ジュエリー岡野の人気デザインで、ネットでも即完売なのよ。青山のお店でたまに売り出されるけど先着順で朝早くが苦手な私はあきらめてたの」
佐和子は、大事そうに箱にしまいながら言った。
「四時起き、佐和子ちゃんの喜ぶ顔が見たかったからね」
「涙ウルウル?」
自宅から毎日四キロの道のりを片道四十分歩いて往復している健脚自慢の仙台サテライト長の小暮が言った。
「心はそんなもんじゃありません。涙ダーダーです」
佐和子が顔の前で掌で涙の滝を作った。
自然と春夫と松野の視線が合った。松野が春夫に頷くのに春夫も微かに頷いた。冷戦回避であることは間違いないだろう。




