第三章 六月下旬~七月下旬 8
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昼休み明美は、いつものように女性達と社内でお弁当を食べていたが、男性社員の多くは、近くの中華料理屋に行った。
「西野さん、色っぽいよなあ。さっき、メイクとかランジェリーをマンツーマンでって言った時の俺への視線、ドキッと来たよ」
春夫の前の峰岸サテライト所長が言った。
「艶っぽい、と言った店長さんもいましたよ。女性ですけどね」
レイハナ八号店の長谷川店長の顔を頭に描きながら春夫は答えた。
「艶っぽいか。分かる。確かに」
峰岸サテライト所長は、ひとり納得する。
「営業同行していた時、女性を感じたりしたことあった」
「だって、女性ですもの」
木川課長の指示を忠実に守っているぞ、とばかり春夫は答えた。
「そうは言ってもさ」
峰岸サテライト所長がなおも何か言おうとした時、
「川田さん、大丈夫かな?」
他のことはのんびりしている感があるのに食べるのは早い松野が、食後のサービスで飲み放題のウーロン茶を前に関係ない言葉をポツンと言った。春夫もそれは気付いていた。午前中の会議で、木川課長が明美を誉めている時、つい佐和子の方を春夫は見てしまったのだが、表情を作る筋肉がこわばっていた。松野も気にしていたのだ。
「ちょっと心配だよな」
春夫も同調する。
「気が強いでしょ、川田っちゃんは?」
金沢の三好サテライト長が言えば
「強いですよ。負けず嫌い」
松尾が答える。
「大丈夫にしなくちゃ。それより、松野君、君は自分のことを心配しなさい」
吉村係長が言った。
「私ですか?全然、オーケーですよ」
松野は、平然と言ってのけた。
この図太い神経は、どこから来るのかと春夫は思う。
午後は、営業部として全体的にどのように展開していったらいいのかという話に加え、企画開発部で検討されている文房具ポーチに動物シリーズを加える案について意見交換会が成された。これの発案者は明美であった。アイディアを木川課長経由で企画開発部に持ち込んだのだ。企画開発部の企画開発課とデザイン課で検討、前向きに検討することになったのだった。
会議には、企画開発課の奥野課長と椎野主任、デザイン課の花柄ポーチの担当、隠岐裕実が出席した。企画開発部と意見交換会というテーマに春夫は内心で矢野主任も出て来ることを期待したが、かなわなかった。
隠岐裕実が描いたカバやトラやシマウマのサンプル絵柄に明美はノリノリで賛成する。業務の女子社員ふたりは「可愛い」を連発して商品化に賛成するが、女子社員の中でひとり佐和子だけが気乗り薄である。フェルシアーノのコーナーの獲得でも大きく負けている上に明美の発案が採用されたりしたら、面白くはないだろう。年齢は上でも相手は少し前まで夜の世界で働いていた人間なのである。「いいんじゃないですか」投げやりとも取れるひと言だけだった。そんな態度に佐和子の負けず嫌いの性格を理解しているから誰も何も言わない。佐和子と明美が冷たい関係になったら嫌だな、と春夫は心配になった。




