第三章 六月下旬~七月下旬 3
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数日後、女子会から重要かつ驚くべき決定が明美にもたらされた。女子用トイレの使用が認められたのである。
営業に出発する際、エレベーターの中で春夫は明美からそれを知らされた。入社から僅か一カ月ちょっとの期間でのことである。
女子会への正式入会を認められたというのを聞いた時も驚いたが、女子用トイレ使用オーケーはレベルが違う。
奇跡的出来事にさえ思えた。
「よかったじゃないか」
「うん、だけど、刈谷係長からしっかり言われた。水を流しながらして、というのとチンチンの先を便器につけないことって」
「えっ、刈谷さん、チンチンの先って言ったの?」
「うん、何で?」
「いい。刈谷さんは、そう表現したのか」
「ねえ、何か隠してない?」
「ないよ」
「気にいらないなあ」
明美は、口を尖らせた。
普段チンチンと表現する人が、会議の席で、チンボコと表現するだろうか。
刈谷係長でなければ、あの日のチンボコ発言は、誰だったのだろう。企画開発課の絵里だったりしたら、――。春夫におかしさが込み上げた。
「なぁに?にんまりしちゃって。いやらしいこと考えているでしょう、最低」
明美が春夫の肩を叩いた。女性の軽く叩くポンではない。バシッ、と来た。
「いてっ」
春夫は、顔をしかめ、声をあげた。
この日が、日程上では、春夫が同行する最後の日だった。加田から引き受けた営業範囲は、問屋、店舗とも、ほぼ回り終えたのだ。今日は、問屋中心だが、最後にとっておきのお店が用意してあった。レイハナ八号店である。長谷川店長の尽力で、入り口をまっすぐに進みカーブすれば会計のレジに続く場所にフェルシアーノの特設コーナーが設けられたのである。その確認をしに行くのだ。
午後三時、レイハナ八号店に到着した。ふたりは、まっすぐ、フェルシアーノのコーナーに行った。間違いなく文房具売り場の先端部分にフェルシアーノのコーナーがあった。通路側に、展示のワゴンが置かれている。ワゴンは、木製で縁が浅く商品が見やすくなっている。置かれているのは、「大人の女性のためのペンケース」と「花柄文房具ポーチ」と二種類の「文房具ケース」。手に取れる見本とそのままレジに持っていける商品が置かれていた。
ワゴンのすぐ奥の棚には、フェルシアーノ製品という名前が書かれたボードが立て掛けられている。ファイリングシステム、大、中、小のメモ用紙、なども置かれていた。
「フェルシアーノのペンケースのデザインってちょっと幻想的な感じもあって、レイハナの化粧品のコーナーを歩いて来た人になんかにも違和感なく受け入れられると思う。ポーチも本当に可愛い」
明美が、嬉しそうに言った。
[この斬新なデザイン、働く女性の間で人気です]
「大人の女性のためのペンケース」の前には紫色の丸文字で描かれたポップが立てかけられている。
[可愛さいっぱいのとっても便利な花柄文房具ポーチ]「花柄文房具ポーチ」には、オレンジ色の丸文字でこんなポップが立てかけられている。
「こんにちは。どうですか」
と、ふたりの傍らから声が掛かる。
吾妻雛子だった。




