第二章 五月下旬~六月中旬 9
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研修期間が終わり、明美を連れての営業スタートの月曜日になった。引継ぎ表が、明美の研修中に渡されたが、自分の仕事もある。木川課長に了解してもらい、引き継ぐ所ばかり優先させることなく適当に割り振ることにした。なにしろ、明美は営業未体験なのだ。一緒に行動するだけで勉強になるはずである。
先週の金曜日の夕方、「行く前に打ち合わせやろう」と木川課長から言われていた。
出発前の打合せは、木川課長の「予約入っていないから」の一言で会議室を使うことになった。
ちょっとひじ掛けが付いた立派な椅子に座る時、ウッと、春夫は、心の中で呻いていた。
今日の明美は、クリーム色のセーターに白のスカート姿だったが、胸の豊かな盛り上がりの稜線が視界に入ったからである。B、C、D、春夫の頭にアルファベッドが浮かんだ。何カップだ?
女性ホルモンの力でここまで膨らむのだろうか。特製パット入りブラジャーとか、女性ホルモンプラスバスト整形も考えられる。春夫は下を向いて木川課長からの言葉を待ちながら、明美の胸の膨らみについて想像力を働かせた。
先に口を開いたのは明美の方だった。
「ストライブですね。お好きなんですか?」
「ああ、ストライブ。好きというか多いんだよね」
顎をきゅっと下げ、赤と青のストライブの自分のネクタイをちょっと照れくさそうに木川課長は見る。まんざらでもなさそうな顔だ。工場や配送センターに同行したことで、明美に対する心境の変化が生じたのだろうか。
「佐伯君、今日の訪問先どうなってるの?」
「ええ、問屋のトキツ、午後から、パピル東京上野店とレイハナ八号店です。レイハナ八号店は、木曜日に長谷川店長からコーナー設置を前向きに検討すると言って来てくれたので、善は急げ、で」
「うん、何とかコーナーゲットに向かってファイトしてよ。三田部長、この前も社長からはっぱをかけられたらしいから」
木川課長は、言った。
フェルシアーノの製品コーナーを店舗の一角に設置してもらうことが、今期の営業部の最重要課題となっている。
「フェルシアーノをより個性的溢れる文房具会社としてユーザーの間に認知させる」のスローガンの元に四月から展開しているのだ。
以前はノートやメモ帳、ファイリングシステム、文房具用プラスチックケースなど、どこにでもある商品のラインアップだったが、ここ数年は、独自性のある商品開発を目指し、ヒット製品も生まれつつある。渦と波を連想させる模様が印刷された「大人の女性のためのペンケース」と銘打った革製ペンケースは、価格的には高いがOLの間で密かな人気商品になっている。矢野主任がデザインを担当した商品である。
「お前の会社は、大人の文房具をターゲットにしてるんじゃないのか」と兄から塚田社長は嫌味を言われたそうだが、中高生向けのビニール製の文房具入れ「花柄文房具ポーチ」も雑誌に紹介されてから順調に売れている。カーネーション、タンポポ、パンジーの三種類に加えてもうすぐ夏に向かってヒマワリが販売されることになっている。こちらの担当者は、専門学校でデザインを学んだ二十二歳、ほぼ金髪に髪を染めている隠岐裕実という名前の女性社員である。




