第一章 五月上旬~五月中旬 11
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「レポートが、段落したら佐伯君の声聞きたくなってさ、疲れたあ」
「頑張ってんだ」
「そりゃあそうよ。そちらは、どう?」
「相変わらずだよ」
「あのさ、前にニューハーフの人が面接に来たって言ってたじゃない。入ったの?」
いきなりドキリとする質問を冴子はして来た。
「ほぼ決まったみたい。営業部所属になった」
「ええっ、そうなの?同じ部署じゃない。佐伯君、もう見たの?」
「見たよ。美人だった」
「美人。シーパーイ」
「何が?」
「二、三日前ね、カレシの会社にニューハーフの人が入るかも、っていう話の後、友達に佐伯君の画像見せたら、『優しそうな顔してる。ニューハーフの人に好かれるタイプかも』なんて言われちゃったから、何か気になってるのよ」
「そんな。からかわれただけ。僕が、好かれたりするわけないでしょう」
春夫は、笑いながらも、即座に西野明美の子守り役のことは絶対に話せないと判断を下した。
ここは、木川課長に犠牲になってもらうことにする。
「好かれるとすれば、課長の方だよ」
「社交ダンス全国百位以内でネクタイの本数が半端ないっていう営業課長?」
「凄い記憶力。そう」
「まあ、私としては佐伯君が好かれて、なびいちゃったりしなければいいだけだけどね」
「絶対ない」
「分かった。じゃあ、おやすみなさい」
冴子は、そう言って携帯を切った。
珍しく実に短い通話時間だった。ふたりが持っている携帯は、十分間まで無料というものだった。
長引きそうな時は、八分から九分で切って、交互にかけ直す約束になっていたが、眠たそうな「おやすみなさい」が「今夜はもういい」と言っていた。レポート作成大変だったのだろう。学業だけでなく、「おいしい亭」という味噌カツチェーンでも冴子はバイトで働いているのだ。本当に頑張っている。
いつもなら、冴子の声の余韻に浸りながら眠りにつけるのだが、携帯をベッドの前の机の上に置くと、再び、西野明美のことが春夫の頭に浮かんで来た。
テレビに出ているオネエのタレント達は、皆、個性が強いように思える。三田部長が、素直だよね、と西野明美を評した時の木川課長の皮肉の成分たっぷりの笑みが凄く気になる。
春夫は、「ああ言えば、こう言う」タイプが、苦手だ。うまくいくだろうか。子守り役だなんて、めんどうなこと押し付けおって。春夫は、心の中で、ふたりの上司に悪態をついた。




