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第五章 九月下旬~十一月中旬 15

           15

 店の中は、ショーが始まる前に戻った。。

「どうでした」

 マスカットが、やって来た。自分の踊りが明美の目にどう映ったか気になったらしい。


「最高だった。悔しいけど、私より素質あると思うわよ」

「そんなことないですよ」

「とに角、ランジスリーを盛り上げてちょうだい」

「頑張ります」


 マスカットと入れ替わるように、Tシャツ姿の男が春夫達の席にやって来た。


「久しぶり」

「ああ、ご無沙汰しております」

 明美が、頭をさげた。


「普通のOLやってんだろう?」

「やってますよ。最高の人生送っています」

「そりゃあ、よかった。瑠璃のことだから、本当は、他のショーパブで踊るようになると考えていたけどね」


「残念でした。昼間のお仕事頑張っておりますわ。マスカットちゃんがいるからいいじゃないですか」

「ああ、彼女は素晴らしいショーダンサーになれるよ」

「ご満足でしょう?」

 棘と棘が突き刺し合うような会話にアキラが割って入る。


「まあまあ、久しぶりなんだからうまくやってくださいましな、おふたりとも。瑠璃ちゃんと同じ会社の方とそのカノジョ」

「いらっしゃい。楽しんでいただけました?」

 宍戸は,表情を崩し、にこやかに話しかけて来る。


「はい。ショーとっても綺麗でした。本格的なのに驚きました」

 春夫は言いながら、宍戸の身体を無意識に観察していた。日焼けサロンで焼いているかの肌の色のその肉体が、見事に鍛え上げられているのが、Tシャツ姿からも伺い知れる。筋肉質、精悍、ぴったりだ。髭はあるが、鼻の下にあるいわゆるチョビ髭だ。


「ごゆっくり楽しんでいってください。じゃあ」

 宍戸は、春夫と冴子に頭をさげ、「じゃあな」明美に向かって手をあげ背を向けた。「戻って来いよ」とは言わなかった。


 宍戸の背中に向かって明美が声を掛けた。 

「ユカリちゃん、元気?」

「元気だよ」

 宍戸は、片手をあげて振り返ることなくソファの間を縫って歩いて行き、一番前の端っこのひとり用のソファに座った。


 美穂子ママからは、感謝の気持ちを忘れずにと言われた明美だったが、一度もソファから立ち上がることをしなかった。

「アキラ、水割り、このふたりにも」

「了解」

 

 水割りがそろったところで、もう一度の「乾杯」。明美は喉を鳴らして水割りを飲み干した。殺伐とした雰囲気が漂う席を和やかな場に戻したのは、アキラの巧みな話術のリードだった。美穂子ママが、こうなることを予期してアキラを席につけたのかも知れない、と春夫は思った。


「冴子ちゃん、ニューハーフクラブがどんなところか理解出来たでしょ?」

「はい」

「じゃあ、そろそろおいとましましょう。ママに挨拶して来るから待ってて」

 明美が立ち上がるのを

「ねえ、ちょっと、短すぎない。もっと、いてくれてもいいでしょう」

 アキラが引き止める。


「十分よ。挨拶して来る」

 明美が、美穂子ママの方に歩いて行った。

「ユカリちゃんって?」

 冴子がアキラに聞いた。



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