第五章 九月下旬~十一月中旬 14
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「了解、お客様、よーくご覧になって。ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト。ご理解出来まして」
カリナは、パトブレのステップを踏むが、ぎこちない。けれど、演技だったらうまいものだ、と春夫に思わせる。
「バッチシ、ご理解出来ました」
お客が答える。
「じゃあ、マスカットちゃん、やって見せて」
「やります。ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト。ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト」
マスカットは、カリナより三倍位のスピードで、パトブレのステップをふたりの先輩の前で踏んで見せる。
「下手ではないわね。じゃあ、シュレ。お客様、シュレは、体を連続回転させる技です。カリナちゃん」
「うーん。私、昨日、階段踏み外して、片足立ちしんどいからアキラちゃんやって」
「随分、都合よく階段踏み外したわね。いいわ。ふたりとも、後ろにさがって、行くわよ」
アキラは、体を回転させるシュレを繰り返して見せるが、小太りの体が、よろける様は如何にもおかしく、冴子の大笑いを誘った。
マスカットは、優雅に流れるかに体を右から左に回転させながら移動させた。アクセルターンも断然の差である。
コント自体は、ありきたりだが、マスカットの躍りのレベルが、極めて高いのをラウンジスリーを訪れたお客に伝えるには十分だった。「素晴らしい」「素敵」明美は、舞台上のマスカットに賞賛の言葉を惜しまなかった。
明美が来るのを想定して美穂子ママが、宍戸という演出家に頼んだ結果のコントかも知れない、と春夫は思った。
アキラ、カリナ、マスカットがいなくなった舞台に琴の音が静かに流れ、それが、華やかな音楽に変わると着物姿のニューハーフ達が、現れた。様々に変化する照明の彩りと速いテンポの舞踊があでやかな世界を舞台に作り出す。
春夫は、唯々その空気の中に飲み込まれた。冴子もひと言も発することなく身を乗り出して見入った。踊り終わった四人に春夫も冴子も大きな拍手を送っていた。
ラウンジスリーのホームページの挨拶で美穂子ママがショーに力を入れている店であると言っていたが、その通りだった。この華やかな舞台を演出しているのが、宍戸という演出家なのだ。久しぶりに踊りの軸を担っていた明美が来たのだ。ショーが終わったら此処に来るかも知れない。早くその姿を見たいと思った。
舞台は再び暗転した。少しの間を待って、最初のメンバーによるダンスに変わった。
今度は、数人ずつのグループからなるダンスだった。数分踊ると次の四人に変わるという構成だった。アキラもカリナも踊る。マスカットは、最後の三組目に再び登場した。この組だけアレンジが違った。途中までは同じだったが、真ん中辺りから、マスカットが中心の躍りになった。優美な流れの中にキレを感じさせるステップワークだった。
隣の明美は身を乗り出して、半年程前まで自分が踊っていた舞台を見つめている。
着物を着て踊ったメンバーも最後に出て来てフィナーレだった。ラインダンスを踊るように肩を組み、片足を前に出しての挨拶でショーは終わった。




