第五章 九月下旬~十一月中旬 12
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高齢のステッキを持つ男性が立っている。恰幅がよく、髪は黒々としているが、長いもみあげの下の方は、白髪になっている。
「いらっしゃい。瑠璃ちゃん、久しぶりでしょ?」
「おおっ、瑠璃ちゃん。どうして、僕に黙って辞めちゃったのよ。ママに聞いたら、堅気の仕事についたっていうことだけど、何してるの?」
「OLです」
「OLだったらうちの会社に就職すればよかったじゃない。どんな会社?」
「まあ、そういうことで」
「水臭い奴ちゃなあ。まあ、無理して聞かんけど。転職したくなったら、遠慮なく声かけてくれれば面倒みるから」
「お席、いつもの所、ご用意しております。ごゆっくり楽しんでいって」
春夫と冴子に声をかけ、ママはステッキを持つ男性を案内して一番前の右側の席に連れて行った。
「常連客?」
春夫は聞いた。
「そう。ねえ、瑠璃ちゃん。真中さん、この前来た時、私がついたんだけど、昔、ママに本気で恋してたなんて言ってたけど、本当かな?」
「知らない。まあ、真中さんが本気でもママはそうならなかったと思うけどね」」
「言える」
「うちのママ、今じゃ貫禄十分だけど、若い時は顔もほっそりして美人だったのよ」
アキラが、言うのに
「何となく分かります。今でも色っぽさを感じます」
冴子が答えた。
「私といい勝負かしらね?」
「うーん、お答えは控えさせていただきます」
「佐伯さん、さっさと別れちゃいなさい」
アキラの反撃に席は盛り上がる。
「時間よ」
とアキラの背中を叩き赤のキャバドレスを着たニューハーフが過ぎて行く。
「ああ、悪夢の時間が来たわ。皆さま、せいぜい笑ってくださいませ」
しなを作って頭を下げるとアキラは前方に歩き、左に折れて赤いキャバドレスの仲間に続いて扉の向こうに消えて行く。




