39話 笑う皇帝
《べバールの塔 最上部》
「何か用があるのか」
僕は皇帝に剣を向け、近づく。
皇帝はそんな事など動じず、座ったまま動かない。
「取引をしにきた」
「取引?・・・おぉ、まさかとは思うが、ザークの身柄を持ってきたのか?」
「ザークはいない。それに、身柄を渡すつもりはない。彼は僕たちの国で厳正なる処罰を受けている」
「で?取引とは?」
「貴方の命と引き換えに、この国を貰いたい」
そこで皇帝は高笑いを始めた。
「腹が痛い。素晴らしい心意気を持つ兵士が、ムジークにはいる様だな。そこだけは褒められる。だが、それだけだ。それ以外は何も褒めようが無いな。笑えるよ」
「僕は本気だ」
「取引というものは・・・両者が対等じゃなきゃならないんだよ君。今の話じゃあ、私だけが不利じゃないか・・・それもあくまで君が僕を殺せる前提の話だよ」
「そうだ。だから、僕はその命の引き換えに、もうひとうの条件を提案する」
「ほう」
話を聞いたまま、やっぱり、皇帝は動かない。動じない。僕は緊張しているというのに、これが差なのか・・・
「もうひとつの条件は・・・この国を貰った時、貴方の命を保証するって事」
命を奪って、この国を貰う。
けれど、この国をもらった時、命は保証する。
矛盾。めちゃくちゃな矛盾だけど・・・
戦争をなくすために戦争が起きる。
何となくそこから思いついた屁理屈だ。
「良いねぇ。非常に良いよ。若き兵士よ」
そこで初めて、皇帝は起き上がる。
帝座の後ろにある、武器を取り出した。
それは金色に輝く、強いのかどうかも分からない剣だった。皇帝は僕に背中を堂々と見せた。
その瞬間、斬ることも出来たかもしれない。
「先ほども言ったはずだ。この話の前提は、君が私を殺せる前提だ、という事」
金色の剣を掃除しながら、皇帝は僕に向けて剣を向けた。
「私はね、魔法も使えなければ、超能力なんてものもない。こんな年齢まで、この国のトップである事、その根本は、私の強さだ。そして、分かる。分かるんだよ・・・」
「分かってたまるか」
「分かるんだ。君が、人を斬れない、優しい・・・いや、言葉を変えれば弱い人間であるということを」
そう言って、皇帝は軽やかな足取りで僕に間合いを詰めてきた。僕は未来を見る。剣を振っている。その通りに振る。僕の剣と、皇帝の金の剣がぶつかる。
「多少はやるみたいだね」
・・・しゃがんでいる。僕はしゃがむ。剣を持っていない方の手から目潰しの手が飛び出していた。危ない・・・次は右に逃げる。皇帝の足が飛び出す。
剣術だけじゃない・・・この人は本当に強い・・・
戦い、殺し・・・戦争、そんな事を乗り越えてきた人間だ。
一番驚くのは、それがこの白髪を生やした年齢でも発揮されていると言う事。
きっと未来を視れば、本来はこの人の命を奪う事は容易なのかもしれない。でも僕が見る、進むべき未来っていうものに、それはない。
だってもう、これ以上、血を流したく無いから。
「僕は聞いている。貴方のこの国のやり方、押さえつける様なやり方が、国民はおろか、兵士達にも嫌われているってこと・・・だから貴方は兵士を殺し、魔法で自分の上手く行く様な手駒として扱っているということ・・・」
「また、幼稚な言葉を・・・嫌われている?そんなもの、当たり前だ。民を動かす覚悟がある者は、己の事しか考えていないのだ!」
ーその時、僕には未来が視えた。
僕は、庇っている。アシトを。
アシトを庇って、僕はきっと攻撃を受けている。
どうしてだ?
アシトはチートを使えば無敵なはずなのに・・・
「さっきからよォ!テメェ!先輩を馬鹿にしやがって!」
アシトは怒りに任せて、皇帝の元へ走り出していた。
・・・バカ!コイツ!!!そういうところが馬鹿なんだよ!!!
もう、これ以上、血を流〝させて〟たまるもんか。
僕はアシトの元へ・・・盾になる様に、走り出す。
皇帝はその剣をアシトに向け、身体を動かしている。
これは進むべき未来。きっと、アシトを守る事が何かにつながる。それに、アシトを守る事は僕の役目だ・・・
その時。
バン!!!!と大きな音がなる。
それはスローモーションの様に再生される。
どこからともなく、壁をぶち破る様に現れたその男が、さっきまで僕のいた場所を通って突進する様に、皇帝に体当たりした。
「おい!俺の出番!すくねーじゃねーかよ!!!」
フッさんだ。血だらけのフッさんがいる。
倒れる皇帝に刃を向けている。
「チート使い共に、その座を奪われてたまるか!俺が英雄で!騎士団長で!!!!主人公だ!!!!!!」
【第四章 おわり】




