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その座を奪われた主人公   作者: 大野春
第四章 ふたつの国
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38話 歯軋りの音


《要塞都市デッサン》



《第一区・首都ヨレンク》



ワイは馬に揺られている。

2人乗りだ。マタタキ先輩が前で手綱を引いている。

その横で浮遊男が手綱を持ったまま、ふわふわと浮かんで馬に連れられていた。


「マタタキ先輩!どういう事っスか?」

「アシト・・・やるよ」

「やる?何をッスか?」

「皇帝と交渉をするんだ」


「こっ、交渉っ!?」


「うん。この帝国を貰うための」


く、国を貰う!?

マタタキ先輩・・・何を言ってるのやら。


「僕は思いついたんだ。国が2つあるから戦争が起きる。だから。国を一つにする」

「・・・先輩、意見していいっスか?」

「矛盾してる、って言いたいんだろ?」

「は、はい・・・」


「僕は説得や交渉で国を貰う。アシト・・・矛盾っていうのは、交渉の材料になる」

「む、矛盾が!?」

「簡単な事に気が付いたんだ。僕はなによりも大切な、命と矛盾を交渉させるんだ」


マタタキ先輩の背中しか見えなかったワケで。

でも、この人のよく分からない説明は、きっとガチな表情で言ってることが伝わった。



「国を貰うこと、そしてゾンビ兵の動きを止める事。その2つが出来れば、この争いはきっと、終わらせる事が出来る」


「り、了解ッス・・・マタタキ先輩の為なら・・・」



《べバールの塔 入り口》



「君・・・名前は・・・」

マタタキ先輩が、改めて浮遊男に名前を聞いた。


「俺っちの名前はカルバヤシさ」

「カルバヤシ。君を信じる。僕たちで・・・止めるんだ。もう、これ以上、血を流さない様に」

英雄ヒーローになれるかな、俺っち」

「うん、なれるよ。そして、みんなでなろうよ、ヒーローに」

「分かった!頑張る!」


そう言って、浮遊男カルバヤシは地面を蹴り、ぷかぷかと塔の上部へと上がっていく。



「・・・で、どうするんですか?ワイら」

「塔を登ろう」

「え?登るって、入り口には見張り兵もいるし」

塔に登る方法はカルバヤシから聞いている。螺旋状の階段を延々と登る方法。もうひとつは内部の滑車を利用する方法。壁伝いに自力で登ることは出来ない。

この塔の至る所はトゲトゲしていて、いわゆる〝返し〟というものが付いているからだ。



「アシト。話を聞いていたのか?彼らはもう、機能していない」



マタタキ先輩は堂々と・・・見張り兵を無視する様に歩き出した。見張り兵は微動だにせず、ワイらの侵入を許す。



「あとはこの滑車で最上階まで行けるはずだ」



マタタキ先輩と2人で、エレベーター的なものに乗る。

ギリギリと壊れそうな音を立て、それは天へ向かって動き出した。



「テコンに残してきたヤツらは大丈夫なんすか?」

ビゼはワイが戦っていた爪男と・・・レオナルドさんはディエゴと交戦中だった。


「信頼してる。それに、あの2人は他と同じゾンビ兵だ」


「それで油断したフレデリックさんが撃たれたンすね?」


「ああ・・・」


ゆっくりと、上昇するそのエレベーター的なやつ。


「って!フレデリックさんはどーするんすか!?」


「ビゼの事も、シズカの事も、あの大きな男の事も・・・僕は信頼している」



「そうっすね」



ワイには容易に想像できた。

あのエロ騎士団長はきっとあんな一撃では死なない。

きっと出番が少ない事に腹を立ててるぐらいだ。



がこん!

滑車が止まる。

そして、次の滑車に乗り継ぎ、ワイ達はさらに上を目指す。



「入り口の兵士たちはどうして、ワイらを通したんですか?」

「彼らもゾンビ兵だからだよ」

「は、はぁ・・・」


「奴らは殺され、復活させられ、そして、指示を受けるとその通りにだけ動く。あの見張り兵には、動くな、とカルバヤシが命令したんだ」


「い、いつの間に?」


「アシトを馬に乗せる前に」


「そ、そんな前に遠くの兵士に指示を出したって言うンすか!?」


「ああ・・・それは・・・」

とマタタキ先輩が言った瞬間。

滑車が止まる。



小さな部屋に到着する。



そこには、帝座に座る、皇帝。



グググググ・・・音が聞こえる。

これは皇帝の歯軋りの音だった。



「なんだ貴様らは」



「僕の名前は、又滝瞬!ムジーク王国の兵士だ!」



そうして、マタタキ先輩は剣を向け、皇帝に向かって、歩き出した。




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