35話 気圧される女
その瞬間をアタイは目撃した。
ふらっと起き上がった男が、
魔法を使用して、小さな球を出現させ
それをフレデリックの胸に撃ち込んだ事。
後ろからの攻撃なんて、卑怯な奴だ。
「フレデリック!!!!!」
そう、アタイより先に叫んだのは
レオナルドだった。
ー回想ーーーー
破壊されていく街。
アタイは手綱を引き、馬を動かしている。
後ろには見ず知らずの男が顔を青くして、気を失っている。胸部から血がじわじわと吹いていて、時間と共にそれは広がっていた。
マタタキに頼まれた。
この大男を病院に連れて行け、と。
・・・って、アタイにはよく分からない!
そもそも街はめちゃくちゃだ!
病院がどこにあるかも分からねー!
アタイは辺りを見渡す。
建物は崩れ、木々は燃えている。
遠くに見える大きな塔はなんだ?
いいや、今はそこじゃない。
誰かに訊ねようにも、人々は既に逃げちまってる。
くっそう!
野生のカンってのはあるんだが・・・
人を助ける術なんてアタイには無い!
「・・・酒」
「えっ?」
振り返るアタイ。大男が意識を取り戻している。
「酒をくれ」
「何言ってんだアンタ!」
え?これって、死ぬ前に一杯飲みたいって事かい?
「探してくれ、緑色のビン、キャンパ酒」
「なんだよそれ」
「頼む」
アタイは探した。少し探しただけだが、物語を運ぶためかのように、それはすぐに見つかった。
緑色のビン。フタを開けるとサケの匂いがする。
「これでいいんだな!?大男!」
アタイはその男の口にビンを突っ込み、飲ませる。
そうすると、ぶしゅっ、っと傷口から血が噴き出した。
「おい!アンタ!大丈夫なのか?」
「礼を言う。この酒には薬が混ぜられていてな。元気になる薬だ。戦うためのな」
「血が噴き出してるじゃねーか!」
「心臓が元気になっている。傷口があれば噴出すほどの血が・・・力が溢れているんだ」
しばらく呼吸を整えるように、大男は辺りを・・・街の惨状を見渡す。見渡し終えた頃には、不思議なもので、出血は止まっていたし、顔色は元に戻っていた。
「私の名前はレオナルド。君の名は?」
レ!レオナルド!?
アタイ達が追ってきた男だ!
コイツを復活させちまったのか!?
「ア・・・アタイの名前はビゼ」
「改めて礼を言う。ありがとう」
その時。
たしかに重なったんだ。
フレデリックの姿と、この大男、レオナルドの姿が。
敵として追いかけてきたはずなのに・・・
アタイはこの男を敵とは思えなかった。
「この街が何故こんな事になっている」
「アタイは理由なんてさっぱり分からないよ、でも、さっきまで空を飛んでた男が街を破壊していた」
メキメキ・・・とそういう擬音が似合うぐらい、レオナルドの顔に血管が浮かんでいる。
「許さん・・・その男はどこへ?」
「アタイの仲間が追っている」
「近くまで案内してくれるか?」
「あ、ああ・・・でも、アンタ、大丈夫なのか?本当に」
「この街の悲鳴が聞こえる」
「え?」
「それに比べれば、こんな傷、大したことではない」
「わ、わかった」
再び手綱を引き、馬を走らせる。
ー回想おわりー
そして今、アタイの目の前でフレデリックが撃たれ、レオナルドが駆け寄っていく。
アタイには何がどうなってるのかわからない。
だってこの大男はアタイらが敵として追ってきた男。なのに、今はその敵に心配されている。
やっぱフレデリックって不思議な奴だ。
知らぬ間に色んな人間を巻き込んでる。
って!今はそれどころじゃねぇ!
アタイは腰につけた4本のナイフを取り出して、両手、指と指の間に挟んでカニみたいなポーズを取る。
・・・アシトが戦っているその男も、爪をつけて、アタイと同じようなファイトスタイルだ。
マタタキは敵らしき人間と対話している。
アシトは爪野郎と対峙・・・
アタイが戦うべきは・・・
フレデリックを撃った細目の男だ!
男は既に血だらけ。弱ってやがる。
「よくもフレデリックを!てめぇ!」
「待て・・・この男には・・・たくさんあるのだ・・・」
レオナルドがアタイを制する。
さっきよりも血管が浮き出していて、その怒りが増しているのが分かる。
「たくさん?」
「とにかく、お前の出る番じゃない」
アタイはその目で睨まれ、気圧された。
「レオナルドくん。牙を向ける、そういうことでいいのかな?」
「街はこの有様・・・そして部下を・・・友を・・・俺の大切なものの数々を傷つけた・・・許せんぞ・・・」
レオナルドが息を吸い込む。
そしてすぐに、視界から消えた。
アタイは遠くを見るのも動く物体を捉えるのも得意だ。それでもレオナルドの姿は捉えきれなかった。
細目の男は縦から真っ二つに、切れた。
「・・・」
その断面は、例えば動物が臓器を剥き出しにするようなカンジじゃなくて、芋を切った時みたいに、ただ、同じ色の中身が続いていて・・・
そしてそれはすぐにくっついた。
な、なんだよコレ・・・
「何度やっても、無駄だ。私は選ばれし戦士なのだ」
これがゾンビってやつ?
「何度でも切ってやる・・・」




