31話 逃げ惑う人
《グラフィカ帝国ー自然都市テコン付近》
僕は手綱を引っ張り、馬を止めさせた。
あわせて荷車も急停止する。
「どうした?マタタキ」
「様子が変だよ・・・街の・・・」
少し離れた高い位置から見えるのは、煙・・・
僕たちの国は、蒸気文明が発達している。
グラフィカも同様に蒸気を使っているから、煙は出る。
でも、この先は自然都市のテコン。
事前の調べによれば自然と調和する事をテーマにした都市だから、蒸気は使っていないはずだ。
何かが起きている・・・
「嫌な予感がする」
「行かなきゃ分かんねーだろ」
「そうだね。気をつけていこう」
急がないと、大きな男の怪我が悪化してしまう。アシトから頼まれたんだ。この人を・・・
そして、近づくにつれて、その惨状が見えてきた。
破壊の音。
人々の悲鳴。
逃げ惑う人。
崩れていく建物。
燃える木々。
《グラフィカ帝国ー自然都市テコン》
「な、何が・・・起きているんだ?」
「マタタキ!あれを見ろ!」
捉え損ねた空を飛ぶ男が魔法を使っている。
鉄球を飛ばし、街中を破壊していた。
どうして?ここは君達の国の街だろ?
「無差別攻撃・・・?」
市民を殺し・・・
兵士として扱うつもりなのか?
すぐに察しがついた。
「シズカ!叫んで!」
そう言わずとも、シズカはその状況にきゃあと叫んでいた。
・・・シズカのチート能力は、シズカ自身が叫ぶと、その声が届く範囲は無音になる、というもの。
ちなみに同じく異世界からの転生者である僕には、この力は効かない。
僕にはシズカの叫びが聞こえる。
この力の一番の使い道は魔法だ。
魔法というのは、力の結晶に、力を引き出す様に呪文を唱える。
結晶はその問いかけに対して呼応し、力を発揮する。
結晶に必要なのは声がけで、それが無音になれば魔法は発動されない。
異世界転生者同士にチートは効かなくても、結晶は呪文を聞き取れないから発動はされない。
つまりシズカのチートはどの相手にも完全に魔法の発動を無効化できる。
あくまで発動を無効化できるだけで、発動した魔法は無効化出来ない。
シズカが叫びながら、空飛ぶ男の様子を確認する。
やっぱり・・・さっきも確認はしけど・・・
空を飛ぶ男の手から発動しようとしていた魔法の鉄球が消える。
しかし、彼自身は依然として空を飛んでいる。
可能性は3つある。僕は考える。
ひとつは、既に空を飛ぶ魔法が発動していて、ずっと飛んでいるかもしれないということ。
ふたつめは、僕には分からない技術の乗り物・・・プロペラ付の靴的なもので飛んでるということ。
そして、最後の一つの可能性。
チート能力、という事。
そうなれば彼もまた異世界からの転生者。
それなら・・・
息切れで叫ぶのを辞めたタイミングでビゼに語りかける。
「ビゼ、この大男を病院に連れて行って!」
「えっ!?こんな状況じゃ病院なんて・・・」
「早く!」
ビゼに馬を任せる。
僕とシズカは走り出した。
「シズカ、僕はあの男と交渉できるかもしれない!出来る限り叫んで!とにかく破壊を止めさせないと!」
「言われなくたって叫びたくなるわよ!」
酷い・・・有様だ。
逃げ惑う人。倒れる人。足がすくむ人。
行かなくちゃ。
宙を浮く男の近くまで行く。
男はふわふわと浮きながら、発動しない魔法に焦り、結晶を見ている。
近くに来た僕たちに気がついた。
「今すぐ辞めるんだ!」
「また!お前らか!俺っちの邪魔をしやがって!」
「君!君も!異世界からの転生者・・・一度死んだ人間なんだろ!」
「い、今なんて」
そういうと、男は降りてきた。
落下してきた、という感じだ。
僕は威嚇のために剣を抜く。
「どうして、それを・・・」
「分かるんだ。それ、力で飛んでるんだろ?」
「お見通しか・・・」
「どうしてこんなことをしている!」
「俺っちだって必死なんだよ!功績を残さなきゃ、皇帝に殺されちまう!」
「皇帝・・・」
「アンタ!最低ね!」
シズカが罵った。
「お前らのせいだぞ・・・お前らが俺っちに悪い事するから・・・こうするしかなかったんだ!」
「待てっ!」
片脚で地面を蹴り、遠くへ飛んでいこうとする男。
僕の手は届かなかった。
二度も逃してたまるか!




