29話 馬鹿なお願い
ー回想ーーー
少し高い目線の位置。
僕達はリバンタンで用意した馬に乗り、移動する。
この馬は2人乗りできる鞍があり、移動用のものだ。乗りながらの戦いには向いていない。
僕は勇気を出してくれたリバンタンの兵士6人と3頭の馬で国境へ向かっていた。
その道中、シズカとビゼを待機させたハモニク村に寄る。
「アタイらの出番?」
「私の力、何か使えないかな」
ふたりは待っていました、ってカンジで出番を待っていた。たしかに今回はこの2人の出番は少ない。
僕は迷った、いいや、本当のことを言うと迷ったふりをした。それでも、きっとフッさんなら・・・
「僕が守るよ。ついてきて」
そんな事を言ったのかもしれない。
どうせしばらく、休業だ、と諦めながら語るカタスカさんに馬車を借りる。荷車に2人を乗せた。
そして、国境付近、関門の近くで兵を張る。
長らく待機していた。
「何も、誰も来ないわね」
荷車の幌に身を隠しながら、僕に向かって話しかけるシズカ。ビゼはナイフの手入れをしている。
・・・その時、未来が見えた。
進むべくで未来が見えたんだ。
僕は国境を越えている。その先にいる。
関門でグラフィカ側の見張り兵に尋ねてみた。
意外とストレートに頼んでみたりすれば・・・
「馬鹿なお願いでごめん。越境したいんだ」
「何を言っている。それに通達を読んだのか。これより戦争が始まるのだ」
当たり前の返答が返ってくる。でも、彼らは・・・僕に刃を向けたりはして来ない。
「兵士さんは戦争がしたいの?」
唐突な質問に困惑する見張り兵士。
「ほら、誰も望んじゃいないんだ。任せて欲しい。僕は戦争を止めに行くんだ」
そんな説得なんて応じるわけがない事、僕は分かっていた。
それでも見張り兵にお願いした。
やっぱり、それは無理だったんだけど。
2名の見張りに対して、僕たちは力ずくで彼らを拘束した。
「ごめん。でもきっと、そのうち、この行為が意味をなすことになるはずなんだ」
そういって僕は拘束した見張り兵を見ていた。
そうして、越境し、馬を進める。
遠くでアシトが戦っている姿が見えたんだ。
空を飛ぶ男と。
僕は未来を見ている。
「シズカ!叫んで!」
僕はシズカにお願いをした。
先手を打ったのだ。
ー回想おわりー
「逃した・・・」
ビゼが4本のナイフを回収しながら、残念ながら語っている。
彼女は異世界からの転生者でもない。チート能力も使えないし、魔法も使えない。でも、彼女は強い。野生のハンターって感じだ。
「アシト!状況を教えて欲しい!」
僕はアシトに尋ねる。
今、僕の目の前に広がる景色・・・
それは間違いなく、戦場、だった。
「コイツらはテコンの自警団ッス!味方!あっ!でも!そのうち何人かが逃げた空飛び野郎の魔法で操られてるゾンビ兵ッス!」
そう言いながら、襲いかかるゾンビ兵を蹴り飛ばすアシト。
「ゾンビ兵!?」
「死んだ奴を復活させたんですよ!倒し方が分からねーッス!赤い眼の奴がゾンビ兵ッスよ!」
禁忌魔法・・・既に完成していたのか。
だからこそ、戦争を仕掛けようとしていた・・・
「マタタキ!どうする!?」
僕の指示を待つビゼ。さらにその背後には血のたぎったムジークの兵士達も戦う事を望んでいるようにしている。
「ごめん!待機して!」
状況が飲み込めない事と、出来る限り戦いたくない僕はビゼ達に指示をする。
あの逃げた男をなんとかしなくちゃならない。プカプカと浮いて、飛んで行った男。
アシトが大男を抱えて現れた。
「あと!先輩!この人怪我してて!早く助けてあげて欲しいッス!」
僕は血だらけの大男を見る。
重症だ・・・
アシトが願う、助けて欲しい人・・・なんとかしなくちゃ。
ゾンビ兵は見たところ、アシトひとりでもやっていけそうな戦力みたいだ。
それなら僕は・・・
「アシト!ここを任せる!」
「うっす!マタタキ先輩!」
「僕はこの先のテコンへ向かう!僕はこの人を病院かどこかへつれて行くよ」
そうだ。怪我人の救助。
これは病院に行くしかない。
そして、逃げていった空を飛ぶ男はその方向へ向かっている。
一石二鳥。
・・・目的地は、自然都市テコン。
「了解ッス!」
「ビゼとシズカは僕についてきて!兵士団はアシトを援護!頼む!」
こうして僕は再び手綱を引き、大男を荷車に乗せ、自然都市テコンへ向かう・・・
少し重くなり、スピードが遅くなる馬車。
その時の僕は・・・
あの空を飛ぶ男が・・・
テコンで大量虐殺を行なっていることなんて、知らなかったんだ。
【第三章 おわり】




