25話 三闘神に四天王
《グラフィカ帝国ー要塞都市デッサン》
《第一区・帝都ヨンレク》
《地下独房》
どれだけの時間が経過したのか、俺には分からなかった。
今分かるのは、俺の治療していない傷は痛みながらも回復しているということ、ここが牢獄であるという事。
そして俺は元英雄で元騎士団長のフレデリック・ショパニであるということ。
寝心地の悪い地べたで仮眠を取っていると、ディエゴが現れた。
「ごきげんよう。フレデリックくん」
細い目にギラギラの装飾。相変わらず気持ちの悪い奴だ。
「何の用だ?」
「喜びたまえ。皇帝に会わせてやろう。君は強請りのための材料であると同時に、場合によっては明君として我が国に貢献してくれる人間になるかもしれないからね」
・・・チャンスだ。
俺がいまかけている手錠は、スプレ自警団が細工をしているものだ。実はいつでも外せるチャンスがある。
まずはこのディエゴに連れられ、外に出た時・・・タイミングを伺う。
脱走か、反撃か・・・
「抵抗したら、分かるね?」
「・・・ああ」
「君は利口なはずだ。敢えて締め付けるような事はしない。付いて来なさい」
そう言ってディエゴは牢獄の鍵を開けた。
俺はより怪我が痛む演技をしながら、歩く。
「足元には気を付けたまえ」
俺はディエゴの後ろを歩く。
薄暗い牢獄・・・階段を登る。
結構な段数を登る。
こして、すぐに地上へ出た。
その瞬間、目の当たりにしたのは、この帝国に到着した時に見えた塔。
大きな塔。
「驚いたかな?」
ディエゴはその塔を見ている俺に語りかける。
「随分でかい塔だな」
「この塔はブリゲル皇帝の指示の元建設された、ベバールの塔だ」
ベバールの塔・・・
「この要塞都市を見下ろす事の出来る塔からの眺めは素晴らしいぞ。フレデリックくん、君は運が良い。今からそれを見れるのだからね」
俺は圧倒されていた。
こんなデカい塔・・・間違いなくムジーク城なんかより、高いぞこれは・・・
滑車を何度も乗り継ぎ、その塔の上階に辿り着く。
《ベバールの塔ー最上部》
「ブリゲル皇帝。連れてまいりました」
《皇帝の部屋》
その部屋は思ったよりの広さは無かった。
そこには皇帝が1人。そしてその側近が2人だけ。ディエゴを合わせると敵は4人。
・・・武器を奪えれば、なんとか出来るかもしれない。
「ようこそ。フレデリック・ショパニくん」
ブリゲル皇帝は顔色ひとつ変えずに、喋り出す。
・・・グラフィカ帝国。
その土地の規模は俺たちのムジーク王国よりも小さい。
外交はそれなりに盛んではあるが、閉鎖的なお国柄もあり、その情報は少ない。
この帝国の長、ブリゲル。白髪と白髭。それが目の前にいる。
「俺の名前を知ってるだなんて、嬉しいな」
「当たり前さ。君の活躍は、噂で流れてきているよ」
「国を跨いで噂が流れるなんて、俺も大したものだな・・・」
眺める。チャンスを伺う。
「さて、提案が2つある」
ブリゲルは二本の指をゆっくりとだす。
「ひとつ目はね、私の側近にならないか?という事だ。ここにいる3名は私の信頼する〝三闘神〟何だがね、君を混ぜて四天王にしようかな、なんてね、考えている」
「それは有難い。でも俺はムジーク王国の人間だ。アンタ達の元で働く気は無い」
「そうか。それなら、もうひとつの提案だ。ザークという男の身柄を確保し、連れてきてほしい」
・・・え?
「君は知っているだろう。ノイズ派のリーダー。ザーク。彼は私が支援していたんだ。彼は作戦に失敗し、今は君の国の城で囚われの身となっているそうじゃないか?」
「ああ。無期懲役の禁固刑だな」
「私はね、作戦を遂行できない人間が嫌いなんだ。彼を連れ戻して、殺すか、彼の首を見て蹴り飛ばしたいんだ」
やっぱり、皇帝はお怒りなのか。
「それも出来ない」
俺は即答した。うまくコイツらに靡く発言も出来たはずだが、それをしなかった。英雄は判断が早いからな。
「フレデリックくん。自分の立場を理解したまえ。君は囚われの身なのだ。そして、教えてあげよう。君を捕らえてから、すぐにねぇ、死兵をムジーク王国へ向けて出発させた」
ディエゴが口を挟む。
「死兵!?」
「そう。我々の魔法研究の成果。死んだ兵士を生き返らせたのだよ」
やはり・・・というか、既にもうそれは実現されていたというのか・・・
「戦争でも起こすつもりか?」
「ああ、その通り。本音を言えばね、戦争はしたくない。でも、そうやって我々が力を見せないと、あっちの王様もザークを渡してくれないだろう?」
「ザークを渡す事が、戦争を止める条件って事か?」
「そういうことさ。察しが良いね」
死兵とやらが、既に国に向かっているというのか・・・?
状況が分かんねーよ。
もう既に、交戦が始まっているのか?
その時。
扉が開く。
帝国の兵士が血相を変えて現れた。
「で、伝達です!死兵、数30、消息を絶ちました!」
「なんだって?」
ディエゴが驚いている。
そうだ。アイツらを信頼しろ。俺。
俺はこういう日の為に、兵士たちを育ててきたんだ。
「ブリゲル様。私が確認してきます」
側近のひとりが、塔の窓から飛び出した。どうやら、空を飛べるのか!?
それとも魔法を使ったのだろうか?
ここは最上階だぞ!?
凄すぎるだろ!
カチカチカチカチ・・・
ブリゲル皇帝の歯ぎしりの音が聞こえる。
「どういう事だ」
伝達をした兵士に問いかける。
「こ、皇帝!わたしからお伝え出来るのは・・・」
「計画は完璧じゃなければならないのだ・・・そんな、報告などいらない。殺れ、サンドロ!」
サンドロと呼ばれた側近の男は、ゆっくりと歩き出した。
その1歩目の瞬間に、兵士は腰を抜かして倒れる。
「皇帝。今日はどのような殺し方がお好みで」
「好きにしたまえ」
「如意。では・・・」
サンドロは兵士を片手でつかみ、先程ひとりが飛び出した窓に放り投げた。
「皇帝。いかがでしょう」
「3点だな」
皇帝からの殺しの評価の低さに黙り込むサンドロ。
「すまなかったね、フレデリックくん、話を続けよう。さて、君はどうしたい?我々に着くか、君がザークを連れてくるか・・・」
俺はこの場を切り抜ける算段を考えていた。




