07話 フルスロットルの半グレ
ー回想ーーーー
ドドドド・・・・
胸を震わせるバイクのエンジン音。
「兄貴ィッ!勝ってくれ!」
「オレたちのシマがかかってるんだ!」
深夜の海。工業地帯に面した堤防。
「王が負けるワケがねーんだぜ」
王ってのは、ワイのことだ。この国には王ってのはいない。そうなるならば王になるのはワイだ。そういうわけでワイは自分を王様と称している。
「王様だなんて、デカい口叩きやがってよ、クソガキが!」
暗闇の堤防には、ヘッドライトが2つ。
ワイのバイクと、真島のバイク。
ワイらは俗に言う半グレみたいなもんで、この世界で出世する事が出来れば、極道の世界に入る事が出来る。
今はまだ、パシられて、犯罪の片棒を担がされているワイだ。いつか、のぼりつめて、政治家を動かすヤクザになる。それはもうヤクザじゃない。王様だ。
そうなる予定なのがこのワイだ。
「ワイは、いつでもOKだぜ」
エンジンを空ぶかしさせる。
「クソガキ。チビんじゃねーぞ」
その戦いは至ってシンプルだ。
チキンレースという奴だ。ワイらは殴り合いなんて非生産的な事はしねぇ。
ワイらのステータスを決めるのは、度胸だ。
バイクで同じラインに並び、走り出す。
手足はそれぞれハンドルとペダルにテープをぐるぐる巻にして固定している。
堤防のギリギリを目指して走り出す。
海に落ちれば負け。
そうなればブレーキをかけるだろう。
そのブレーキをかける、タイミング。
その、タイミングが遅い方が度胸のある男って事だよ。
「退かねぇぜ、ワイは」
「バカか。バイクはバック出来ねーぞ」
ーーーーーー
まぁ、想像の通りだ。
ワイはフルスロットルで海に飛び込んでそのまま死んだ。
そうしたら、この世界にいた訳だ。
紆余曲折あって、歳下だけど頼れるマタタキ先輩に出会って、ワイは兵士団に入隊した。
ワイの名前は、後藤足人。
第二の人生が始まったのさ。
ー回想おわりー
《ムジーク王国ー兵士寮》
「アシトにお願いがあるんだ」
兵士団が解散し、途方に暮れたワイたちはとりあえず王様の温情で兵士寮に住んでいる。
そんなある日、マタタキ先輩がワイにお願いをしてきたワケ。
「なんすか!?先輩!改まっちゃって!」
「アシト、潜入捜査とか、やれるかな?」
「イイっすよ!当たり前じゃないすか!マタタキ先輩の言う事ですから!」
潜入捜査???よく分かんねーけど、先輩の願い事は二つ返事でハイ!だ!
「ありがとう、アシト。でも、無理はしないでくれ」
「うっす!」
やっぱり優しいぜ、マタタキ先輩は。
歳下だけどよぉ、この世界での経験含めて、ワイはマタタキ先輩には頭が上がらねぇ。
《キーレギエタの街》
そういう訳でキーレギエタの街に来たワケ。
マタタキ先輩からは色々聞かされている。
どうやらここには殺し合いで賭けをする場があるみてーで、怪しいので調べろってハナシよ。
あのクソエロオヤジ、フレデリックが深傷を負ったらしいんだ。ワイも注意しねぇと・・・あくまでワイの役割は調査だ。
マタタキ先輩に渡された紙の地図の通り・・・
進んでいく。狭い路地。不気味だ。
そしてたどり着く。
おっかねぇ空気だぜ。
まぁ、こんなものワイがくぐり抜けてきた修羅に比べれば屁でもねぇ。
《地下円型闘技場》
噂通りのヤベー集まりだな。
ワイはその地に足を踏み入れていた。
「殺せぇーっ!」「負けるなー!」「刺せぇ!」
見下ろした場所に闘技場があり、コワモテの奴らが戦っている。殺し合いのエンターテイメントってやつか。
おっと・・・見てる場合じゃねぇ。
先ずはこの建物の構造の把握だ。
こういうの、得意じゃねーけど・・・
観客席を一周する。楕円みたいなカタチだな。
扉が何個かあって、闘技場へ向かう部屋、控え室・・・そして、何も書かれていない扉がある。
この扉、明らかに怪しいじゃねーか。
鍵がかかってやがる・・・
「何か用か?」
ドッ、ドッキーーーン!
扉を見つめていたワイに話しかけてくる男。
「うぃっす〜」適当に返してみる。
「何か用か?と聞いているのだ」
「なんも、ねーっすよ!ただ気になっただけっス!この扉は何の部屋に繋がってるのかな〜ってね!」
「何故、興味を持つ?」
「えっ?いやぁ、気になるじゃねーっすか。逆にどうしてそんな質問をするんすか?」
「ふん。馬鹿の相手をしている暇は無い。去れ」
「へいへい」
そう言ってワイは踵を返して、男の元を去る。
・・・うんうん、いいね。
ワイはそのまま地上へ出る。
とぼとぼ歩くワイ。
やはり、さっきの男が後をつけている。
マタタキ先輩の言葉を思い出す。
ー〝もしもアシトをつけてくる奴がいたら、所定の場所まで引き寄せられるかな?〟
ー〝マタタキ先輩のお願いなら、命賭けるッス!〟
ワイは曲がり角を曲がって、振り返る。
するとさっきの男が現れた。
「どうして尾行するンすか?」
ワイは聞いてみる。
「最近な・・・怪しい奴が多いもんでな。お前は何者だ?」
「さぁな〜」
ワイは男を見ながら、後退りするように少しずつ距離を取る。
「命が惜しくないのか?」
男はそう言って、ポケットから結晶を取り出した。
それは、我らがムジーク王国が数年前に禁止した〝魔法〟を発動させる為のアイテムだ。
「そりゃあ〜、命は惜しいっスよ」
ワイは距離をとる。
男を見ながら、後退していく。
「答えろ」
そう言って男は呪文を唱える。
そうすると宙に大きな鉄球が浮かんでいる。
「なんすかそれ!魔法は禁止っスよ」
「黙れ・・・」
狭い路地。男が手をひゅっ、っと振った瞬間。
目にも止まらぬ速さでワイに向かって鉄球が飛んでくる。
剣一本分ぐらいの直径はあるデカいヤツが、ワイめがけて・・・
ドッ
ぼとん。
鉄球がワイの腹にぶつかり、その瞬間勢いが消えて地面に落ちる。鉄球は魔法の効力が消えたのか、消滅した。
「なっ・・・?」
「驚いたか?」
これが、チキンレースで死んだワイのチート能力。
相手を睨んで後退りしている間だけ無敵。
ガチで無敵だ。
名付けるなら。
無敵の臆病者。
イカした、チート能力だろ?




