05話 開かれた蓋
《フレデリックvs.ルベラーバの戦いの日の夜》
《キーレギエタの街ー安宿》
「イツージ、アンタのお陰だよ」
俺は賞金の半分を渡す。
「ナイスファイトだったぜ、フレデリック」
イツージは賭け金の半分を俺に渡した。
あれ?この方法って、そんなに儲ける訳じゃないよな。
「フッさん、大丈夫?」
「ああ・・・」
「しばらくは試合に出れないよ、この怪我じゃ」
「ま、俺はいつでもあの場所にいるからよ。誘ってくれよな。互いに少しでも勝率を上げて、少しでも金を上乗せしようや」
そう言ってイツージは去っていく。
部屋の扉がパタン、と閉まり、少し経つとマタタキが語りかけてきた。
「フッさん・・・どう思う?」
「何がだ?」
「僕は・・・あの場所は良くないと思う。王様に相談して、早いうちに潰すべきじゃないかな?人が簡単に殺されるなんて、おかしいよ」
・・・真面目だな。
「俺にそんな権限はないし、今は尚更無理だ」
「ぼ、僕から言ってみるよ」
「マタタキ・・・」
きっとコイツを止めても無駄だろう。
人の生き死には別だが、決闘で金を賭けるのは気持ち良いものではない。
ただ、俺は少し興奮していた。
久しぶりの戦い。
傷は痛むが、血と一緒に何かが出ている。
戦って金を得る。
それは考えてみれば兵士と同じだ。
「とりあえず今回の賞金で2(ふた)月近くはこの宿で暮らせるし、まずは身体を休めておいてよ。僕は僕で動いてみる」
「ああ・・・」
そう言って、マタタキも去っていった。
俺は用意された食事にありつく。
《翌日》
俺は、地下円型闘技場を目指して歩いていた。
記憶をたどりながら、街の細い道を抜けて歩いていく。
《キーレギエタの街ー地下円型闘技場周辺》
・・・マタタキ。
ごめん。
俺は戦う事に飢えている。
昨日の怪我が痛むのに、戦いたいという気持ちが勝っていた。
戦わない、としても、あの会場の雰囲気を味わいたい。困った事に、そう思う俺がいた。
・・・ええっと、この道を右に曲がって、この紫色の建物を左に曲がって・・・この小道を抜ける・・・
複雑な道のりだ。
なんか間違っている気がする。
ガザッ・・・ガザッ・・・
カラカラカラ・・・
ん?物音?車輪の音もするが・・・
建物の角に差し掛かった時。
黒い装束を身に纏った細身の男が現れた。
男は荷車を引いている。
荷台には6つの大きな樽が綺麗に並べられていた。
狭い道は、その男と荷車のせいで塞がれている。
互いに何も喋らない間が空く。
え?俺が道を譲る感じ?
・・・俺の直感が、コイツを怪しいと言っている。
あっ、そうだ、迷っていたし、ついでにコイツに道を尋ねよう。
「アンダーコロッセオはどこにある?迷ってしまったんだ」
そっと、自分の後ろを指差す男。
何も喋らない。
「ありがとう。先を行くよ」
狭い道、荷車をすり抜けるように俺が道を進むと
剣が荷台の樽にぶつかり、その蓋がズレる。
その開いた蓋に気付き、俺は・・・
樽の中を見てしまった。
「おい、これは!」
そう言い放つ間もなく、黒装束は建物の壁を左右に蹴りながら高さをつけ、俺に向かってナイフを投げてきた。
凄い身のこなし・・・って感心してる場合じゃない!
俺は飛んでくる刃物を剣で弾く。
力は無いようだ。
「壁と壁を蹴って登るなんて、只者じゃないなお前・・・それにこの樽・・・」
黒装束は何も喋らずに勢いをつけ、上空から近づいてくる。俺は咄嗟に樽の蓋でガードした。
木製のそれが粉々に砕ける。
昨日の戦いの傷口から血が噴き出した。
・・・こんな事なら出かけなきゃよかった。
すぐに距離を取る黒装束。
戦いに慣れている。
それにしても、コイツは何者なんだ?
「どうして俺を襲う?その樽の中を見たからか?」
喋らない黒装束。
「まあいい。敵意があるなら俺は戦う」
荷車がぎりぎり通れるぐらいの狭い道。
高い建物の壁に囲まれている。
傷む傷口。
どうしてこう・・・いつも俺の戦いは俺に不利なんだよ。
再び壁を蹴って登っていく黒装束。
右足、左足と、器用なもんだな。
再び距離を詰めて上空から迫ってくる。
・・・俺は走り出す。
黒装束は壁を蹴り、追跡するように上から俺に向かってくる。
・・・今だ!
俺は剣を置き、両手で荷車をぐんっ!と持ち上げて壁にした。
我ながらすげー怪力。
血が吹き出しているが・・・
勢いをつけた黒装束は俺の盾となった荷車とぶつかり、倒れた。
俺はマウントを取り、押さえつける。
剣の刃先を首筋に当てた。
「喋ってもらうぜ・・・」
持ち上げた荷車。
荷台から飛び出した樽の数々。
その中から無数の死体・・・
昨日見た闘士マサカリ。
そして俺は殺さずに終わったはずの・・・
ルベラーバの死体。




