02話 鎬を削る場所
《ムジーク王国ー王都ピアノー魚骨街》
ここは王都ピアノの西部に位置するスラム街。
金持ち達が魚の身を食べるのであれば
ここに住む人達はその残りの骨を食べる。
そういう意味で魚骨街だなんて名前がついたそうだ。
《チョーリツ酒場》
俺、〝元〟騎士団長フレデリック。
酒場でヤケ酒してます。
「確かにあの日のフッさんは・・・盛り上がってたと思うなぁ」
目の前にいるのはマタタキ。
この少年は〝異世界〟からやってきた〝チート使い〟だ。
「も、盛り上がってた!?」
「うん。僕たちも辞めなよって言ってたんだけど・・・フッさん、アンナ姫のお尻とか・・・触ってたよ」
あ、あのブスの!?
俺は尻を・・・触ったというのか!?
「ちちち、ちょっと待てよ!マタタキ!マジで言ってるの・・・?」
「うん。というかフッさん、ちょっと最近お酒飲みすぎだよ」
確かにそうだった。
国が平和になってしまったせいで
今まで酒など飲まずに昼夜気を張り詰めていたのに・・・
今やほぼ毎日飲んでいる。
「・・・明日から酒はやめにする」
「いや、今からにしなよ」
こめかみに分かりやすく水滴の垂れるマタタキ。
「さて、これからどうやって暮らしていくべきかな」
解雇されたので、退職金も出なければ、直ぐに城を追い出されて住む家もない。
ましてや手持ちの金も・・・
目の前のマタタキに頼ろうにも彼らの住む場所は城内の兵士寮だ。
金を借りようものなら俺の僅かなプライドが許さない・・・
「進むべき未来、視てみる?」
「いいや、遠慮しとくよ」
マタタキのチート能力は〝進むべき未来〟を見ることの出来る力だ。進むべき未来、というのは必ずしもその通りの未来になるわけではない、という事。
何かの拍子に見えるらしい。それで瞬きをしちゃうと見えなくなる。
チート能力というものを使えるのは、その本人だけだ。
しかし、力を無機物に宿す事で代理行使が可能になる。例えばマタタキが酒の入ったこのグラスに力を念じて、俺に渡し、俺がそのグラスをうまく扱う事が出来れば、限定的ではあるが、マタタキのチートを使う事が出来る。
マタタキは俺に未来を見させようとしているが
それは違う気がしたので断った。
なぜなら俺は泥臭い男フレデリック。チートなんて使ってしまったら2話でハッピーエンドだ。
「フッさんの経歴なら、剣術を習いたいって人も多いんじゃないかな?」
「不貞行為の元騎士団長から学びたい人間なんて多くないだろう」
「・・・あのビラは国中に撒かれちゃってるもんね」
王都から地方へ情報が広がるスピードが上がっている。技術の発展のおかげだった。
最近はラジオたるものが開発されているらしく、今後、情報伝達のスピードはどんどん上がるらしい。
今はありがたくないと思う俺だ。
「よぉ〜!おっちゃん!金に困ってンのかい?」
2人の会話を盗み聞きしていた酔っ払いが俺に肩をかけてきた。
馴れ馴れしいジジイだ。
「ま、まぁな」
ジジイは俺の事を知らないようだ。
それにしても酒臭いヤツだ。
「とっておきの金儲けの話があるぜ」
「話だけは聞いておこうか」
「キーレギエタの街で今、ホットなのが・・・」
ー〝地下円型闘技場〟ー
酔っ払いジジイの顔が真顔になる。
「アンダーコロッセオ?」
「ああ。平和ボケで退屈してる闘士達が鎬を削る場所だ」
「なるほど」
興味を持つ俺。
「俺はそこで日銭を稼いでるんだ。見りゃわかるぜオッちゃんよ。アンタ、手練だろ?」
「えっ?分かっちゃう?」
図に乗る俺。
というか、このオッさんも日銭を稼いでる?
戦えそうには見えないが・・・
「おい、アンタも戦えるのか?」
「馬鹿言え。俺は賭けをするほうさ。俺は目利きが出来るんでな」
「決闘が賭け事にされているのか?情けない・・・」
「オッちゃんよ。俺と組めよ。俺が対戦相手の情報をやる。お前は勝て。俺はお前に賭ける。俺の勝ち分、お前の勝ち分を折半していく。互いに勝率を上げる事が出来るだろう?」
「ふん。お前に頼らずとも俺は戦えるぜ」
「けっ、気が向いたら頼むよ」
酔っ払いは去っていく。
「・・・フッさん」
俺たちの会話を聞いていたマタタキが口を開いた。
「どうした?」
「いま、未来が視えたんだ。僕はあのオッさんと会話をしている」
「あの男の話に乗れという事か?」
「うん・・・」
マタタキが見る未来、進むべき未来はマタタキにとって有益なものだ。
俺が進む未来とは限らない。
それでもマタタキがその未来を見たという事、それは何かしらの意味があるのかもしれない。
俺たちは酔っ払いを追いかけた。
「やっぱり、組ませてもらうよ」
「来ると思ってたぜ」
ニヤつきながら話をするその男の名はイツージ。
「英雄は判断が早いんだ」
これは新たな俺の決まり文句にしようと思っている台詞だ。




