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その座を奪われた主人公   作者: 大野春
第五章 その座を奪われた主人公 
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48話 その座を奪われた主人公



《時は少し遡り・・・》




《ムジーク王国ー地下結晶室》




《英雄フレデリックとツヨシの戦い》




「よ、よくも俺様の顔を傷付けたな」


俺様の視界は濁っていた。

それに久しぶりに殴られたショックで・・・

・・・色々な事がフラッシュバックしていた。



ー〝お前ってさ!何やってもダメダメだよな!〟

 クラスメートの中野。


ー〝やる気出してもらえるか?〟

 塾長の冨山。


ー〝マジで足引っ張んないでくれる?〟

 クソ女の相田。


ー〝お前、勉強も出来なかったら、本当に取り柄ないぞ?〟

 父。


ー〝ツヨシにはツヨシの良いところがあるわよ〟

 母。



受験に失敗した。


自殺の理由はそれだけだった。


きっと笑われるに違いない。


スポーツも出来ない、協調性も無い、カッコ良くもない。


そんな俺様の最後の望みは勉学だった。


裕福な家庭だったから、塾にも通った。


それでも点数は伸びなかった。


結局、ダメだったのだ。


俺様は弱かった。


弱すぎた。


きっと死を選んだ事、それも弱い事だった。


弱者はいらない。


俺様は存在しちゃならない。


そう思いながら、首を吊った。



ーそして。



目が覚めると、この国にいた。


感覚が理解していた。


異世界転生して、チートスキルを多数取り揃えていることを。


そんな過去の回想から抜け出して、周りを見てみる。


英雄フレデリックが青春漫画のワンシーンの様に、仰向けで大の字になって倒れていた。

顔面を殴られ、ボヤけた視界の中で辛うじて確認出来た。



 「よっしゃ、はぁ、はぁ、一矢報いた」

 フレデリックの呼吸は荒い。

 こいつ、俺様の殴打を2度も喰らってもなお動きやがった。そんな状況で俺様は殴られたのだ。

 ただ、それが限界だったようだ。



 「・・・それで終わりかい?英雄さん?」

 「ああ、もう無理だ。力振り絞ったんだよ」

「・・・呆気ないねぇ」

 

「十分だ」

英雄フレデリックの身体は限界のようだ。戦意が見えない。



・・・さて、コイツをどうすべきか。

 しかし驚いた。50年近くの時と共に吹き飛ばしたのに、のこのこと戻ってきた。


・・・くくく、また同じ様に俺様のチートスキル全部吹飛ゼンブッパで飛ばしてやるのも面白い。


「・・・英雄さん、次は何年飛びたい?」


「いいや、もう良い。殺してくれ。俺の負けだよ。やっぱ勝てねーよ、チート使いって奴には」

フレデリックは穴の空いた天井を見ていた。



「・・・やっと認めたか」



そうだ、チートを身につけた者が全てだ。その力を行使し、序列の最高位に立つ。それが主人公だ。



「でもなぁ、ツヨシ。お前は主人公にはなれない」



「・・・この期に及んで何を言ってる?」



「だって、つまんねーだろ」



「何だと!?」



「最強な奴は主人公になれねーよ。最強な奴に立ち向かうのが主人公だ」



「何を言っている!力をつけ、無双するのが主人公だ!」



「お前がイセカイで弱かったのかも知らねーけど、そのイセカイで頑張れば、主人公になれたんじゃねーのか?」



「・・・これ以上、余計な事を喋るな」




「まぁ、勝手にしてくれ。俺の負け。お前が最強パワーで俺を蹴散らして終わり、終わりだ。なーんも面白くない」




フレデリックはそのまま、目を閉じた。




俺様は・・・コイツに何かをする〝度胸〟が無かった。




悔しい事に、この物語は英雄フレデリックの歩みでしかなかったのだ。


何もかもを兼ね備えている、俺様の話じゃない。


強い力を手に入れて、主人公になったはずの俺様。


でも、その主人公の座は、強い力を持たない男に奪われていた。




その座を奪われた主人公。




これって俺様の事だったのかよ。




俺様は結晶室を後にして、地下水道を歩き出した。



もうこの国には用は無い。


・・・チャンスがあれば


もし、元の世界に戻るチャンスが


あるのなら


チートの無い、つまらない世界から成り上がるのも手かもしれない。



スキルやチートは使わない。



自分の力で歩いてみるか。



そこから、俺様は本当の主人公になれるのかもしれない。






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