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その座を奪われた主人公   作者: 大野春
第五章 その座を奪われた主人公 
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44話 本音の出る英雄


 ツヨシが構える。俺は未来を見る。回避行動を取る。ツヨシの攻撃が失敗する。俺は未来を見る。俺が攻撃を仕掛ける。ツヨシはそれを容易く防ぐ。


 このループが続いている。


 俺は身体の疲れない動かし方を理解し始めていた。まだまだ疲労は感じていないが、それでも運動量は圧倒的に俺の方が大きい。


 ・・・一方のツヨシは自分の立ち位置を変えていない。


 このまま消耗戦に持ち込んでしまうと、俺は間違いなく負ける。



 「・・・なかなかしぶといじゃん、英雄さん」

 ツヨシもニヤついていて、何かこう、戦いを楽しんでいるようにも思える。


 「絶対に負けられない戦いというものもある」

 戦いに言葉は不要だ。なのに無駄口を叩いてしまう俺がいた。


 何故なら俺もまた、戦いを楽しんでいたからだ。


 

 「・・・アンタを倒せれば、俺様は本当にこの国の・・・いいや、この物語の主人公になれるかもしれない」

 ツヨシは主人公という言葉に拘っていた。


 「お前の強さは十分主人公だろっ!俺の立場も奪って!やりたい放題じゃねえか!」

 俺はツヨシに返す。


 そうだ!コイツのせいじゃねーか!俺だけじゃない!幾多の主人公達が、ぽっと出のチート持ち異世界転生者にその座を奪われてきた!

 やりたい放題やりやがって!


 「・・・転生後の人生ぐらい、主人公でいたい」

 「何!?なんだって!?」


 ツヨシの魔法陣が展開する。再び未来を見て回避行動を取る俺。


 「お前みたいなムキムキ戦士に、軟弱だった俺の気持ちなんて分からない・・・」


 「馬鹿言うなっ!俺だって鍛え上げてやっとこの姿になったんだ!」


 「・・・うるさい!」


 攻撃パターンが変わる。咄嗟に避ける俺。今の回避行動は、俺の戦士としての勘によるものだった。再び未来を見る。俺はシンプルに斬りかかっていた。


 ぶんっ!剣を振るが、やはり手応えなどない。ツヨシが腕をクロスすると、これまで体験したような事のない硬さでガードされてしまう。


 「俺から言わせてもらえば、お前ら努力もせずに、チートなどという力を手に入れて!やりたい放題!何が楽しいんだ!」


 思わず本音が出た。


 「・・・楽しいね。だって要らないじゃん、過程は。強い結果だけあれば」


 「願っても、手に入らないから良いのだ、強さは!だからこそ、高みを目指せる!」


 「・・・うるさい!」


 そこで初めて、ツヨシが動いた。動いたというか、自分の立ち位置からその姿を消した。それはほんの一瞬の事で、気がつく時目の前にツヨシがいた。


 そして、腹部に激痛が走る。


 たった一発、殴られた。それだけでもうしんどい。切り傷ではない。内臓を抉るようなパンチ。俺はそれを堪える。



 堪える代わりに、目を閉じてしまった。



 「・・・俺が本気を出せば、お前なんてワンパンなんだよ」


 「フハァーッ!ひてぇ!」

 呼吸が乱れる。うまく喋れない。でも、剣は離さなかった。


 やべぇ、マタタキの力が使えなくなっちまった・・・


 「・・・全ての武器を防御するチート・・・〝完壁イージス〟・・・存じない?」

 「うぐっ、存じ、る、訳ないだろ」


 呼吸が荒い。コイツに攻撃は効かないのか?


 「いいか、努力なんていらない、天運。俺が強ければそれでいいんだよ・・・黙ってろモブ!」


 そう言ってツヨシは床を強く踏む。その衝撃波が床を抜いた。ツヨシの周りの床が崩落していく。


 ツヨシは、宙に浮いていた。

 こいつ・・・なんでもアリじゃねーか。



 「・・・最高のフィナーレを見せてやるよ。来てもらうぜ・・・地下結晶室に」



 ツヨシに連れられるように、俺は見えない力で空いた床の穴から地下へと移動する。

 ゆらゆらと浮遊しながら降る俺を、皆が穴から覗いている。




 「フッさん!」

 「フレデリックさん!」

 「フレデリック!!!」

 「俺たちも行く!」




 「余計な手出しはするな!」

 勝負の場に情け、助けはいらない。

 お前らの力を借りて、勝てたとしても、軍神様に顔向けできないからな。






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