44話 本音の出る英雄
ツヨシが構える。俺は未来を見る。回避行動を取る。ツヨシの攻撃が失敗する。俺は未来を見る。俺が攻撃を仕掛ける。ツヨシはそれを容易く防ぐ。
このループが続いている。
俺は身体の疲れない動かし方を理解し始めていた。まだまだ疲労は感じていないが、それでも運動量は圧倒的に俺の方が大きい。
・・・一方のツヨシは自分の立ち位置を変えていない。
このまま消耗戦に持ち込んでしまうと、俺は間違いなく負ける。
「・・・なかなかしぶといじゃん、英雄さん」
ツヨシもニヤついていて、何かこう、戦いを楽しんでいるようにも思える。
「絶対に負けられない戦いというものもある」
戦いに言葉は不要だ。なのに無駄口を叩いてしまう俺がいた。
何故なら俺もまた、戦いを楽しんでいたからだ。
「・・・アンタを倒せれば、俺様は本当にこの国の・・・いいや、この物語の主人公になれるかもしれない」
ツヨシは主人公という言葉に拘っていた。
「お前の強さは十分主人公だろっ!俺の立場も奪って!やりたい放題じゃねえか!」
俺はツヨシに返す。
そうだ!コイツのせいじゃねーか!俺だけじゃない!幾多の主人公達が、ぽっと出のチート持ち異世界転生者にその座を奪われてきた!
やりたい放題やりやがって!
「・・・転生後の人生ぐらい、主人公でいたい」
「何!?なんだって!?」
ツヨシの魔法陣が展開する。再び未来を見て回避行動を取る俺。
「お前みたいなムキムキ戦士に、軟弱だった俺の気持ちなんて分からない・・・」
「馬鹿言うなっ!俺だって鍛え上げてやっとこの姿になったんだ!」
「・・・うるさい!」
攻撃パターンが変わる。咄嗟に避ける俺。今の回避行動は、俺の戦士としての勘によるものだった。再び未来を見る。俺はシンプルに斬りかかっていた。
ぶんっ!剣を振るが、やはり手応えなどない。ツヨシが腕をクロスすると、これまで体験したような事のない硬さでガードされてしまう。
「俺から言わせてもらえば、お前ら努力もせずに、チートなどという力を手に入れて!やりたい放題!何が楽しいんだ!」
思わず本音が出た。
「・・・楽しいね。だって要らないじゃん、過程は。強い結果だけあれば」
「願っても、手に入らないから良いのだ、強さは!だからこそ、高みを目指せる!」
「・・・うるさい!」
そこで初めて、ツヨシが動いた。動いたというか、自分の立ち位置からその姿を消した。それはほんの一瞬の事で、気がつく時目の前にツヨシがいた。
そして、腹部に激痛が走る。
たった一発、殴られた。それだけでもうしんどい。切り傷ではない。内臓を抉るようなパンチ。俺はそれを堪える。
堪える代わりに、目を閉じてしまった。
「・・・俺が本気を出せば、お前なんてワンパンなんだよ」
「フハァーッ!ひてぇ!」
呼吸が乱れる。うまく喋れない。でも、剣は離さなかった。
やべぇ、マタタキの力が使えなくなっちまった・・・
「・・・全ての武器を防御するチート・・・〝完壁〟・・・存じない?」
「うぐっ、存じ、る、訳ないだろ」
呼吸が荒い。コイツに攻撃は効かないのか?
「いいか、努力なんていらない、天運。俺が強ければそれでいいんだよ・・・黙ってろモブ!」
そう言ってツヨシは床を強く踏む。その衝撃波が床を抜いた。ツヨシの周りの床が崩落していく。
ツヨシは、宙に浮いていた。
こいつ・・・なんでもアリじゃねーか。
「・・・最高のフィナーレを見せてやるよ。来てもらうぜ・・・地下結晶室に」
ツヨシに連れられるように、俺は見えない力で空いた床の穴から地下へと移動する。
ゆらゆらと浮遊しながら降る俺を、皆が穴から覗いている。
「フッさん!」
「フレデリックさん!」
「フレデリック!!!」
「俺たちも行く!」
「余計な手出しはするな!」
勝負の場に情け、助けはいらない。
お前らの力を借りて、勝てたとしても、軍神様に顔向けできないからな。




