35話 美味しい魚
《ムジーク王国ー南西部ータールシ運河》
これは僕、マタタキがフッさんと再会するまでの話。
そう、ちょっと時を遡る。
僕とザークでトキタビを探していたところ。
「トキタビって人は異世界から来たんだよね?」
「ああそうだ。自分自身でそう語っていた。君に会って驚いたよ。彼と同じ様な人間が本当にいるんだな、って」
馬車に揺られながら、ザークが言う。
「そ、そうだ!異世界転生者!」
「なんだ、心当たりがあるのか?」
・・・通りで、僕がその男を探そうとしても、進むべき未来が視えなかった訳だ。
「それにしても、トキタビの奴、いったいどこで何を・・・」
点と点が線となって繋がっていた。
そう、心当たりがあった。
エオーボ大橋を目指し、爆発があったあの日、フッさんとシズカと出会った釣り人・・・あいつに違いない。
あんな分かり易い伏線、無いじゃないか!
「僕、もしかしたらトキタビに会ってるかもしれない。釣りをする人じゃない?」
「どうしてそれを・・・」
「10日ほど前には、タールシ運河で釣りをしてたんだ」
こうして、少し時間がかかってしまったのだけれど、川沿いを捜索した。
その男は釣り糸を垂らし、僕たちを待っているかのようにそこにいた。
「あれれ???ザークさんじゃないですか」
「相変わらず呑気な奴だな。トキタビ」
「どうしてここに?それに、その少年は誰だ?」
ザークは現状を手短に話した。
自分の恩師が現れ、説き伏せられ、魔法をかけられ、正常な考えに戻ったということ。
とにかく明日の攻撃を止めなければならない、という事。
「ちょ、待ってくださいよザークさん。俺たちの信念は?」
トキタビは目を見開いている。
驚いた、そんな表情をしていた。
「信念は変わらない。ただ、やり方は間違っていた」
「やり方を間違っていた?」
「シンプルな事だ。人を殺しちゃいけない。それだけの事」
「う〜ん、ザークさん、拍子抜けなんですけど」
トキタビは、難色を示していた。それもそうだ、この人達は計画を立て、世の中を変えようと頑張ってきたのだ。
そのリーダーが簡単に方向性を変えてしまったんだ。
理解はできないだろう。
「トキタビ。お願いだ」
「ザークさん。アンタ、その魔法にかかっちまっただけでしょ?計画はもう明日ですよ?正気に戻ってくださいよ!」
「正気に戻ったから、お前にお願いしてるんだよ!」
ザークは真剣な表情でトキタビに訴えかけた。
「ま、まぁ、リーダーのお願いなら、仕方無いですけど・・・そもそも俺、中途半端に協力してるだけだしなぁ」
トキタビの竿が揺れる。
「トキタビ。お前が戦いを好まない事は知ってるし、お前の目的は環境の改善・・・だろ。その為に力を貸して欲しい。空間転移で王都まで行く、それだけでいいんだ」
「うん、まぁ、いいですけどっ!」
そういって竿をぐっ、っと立てるトキタビ。
魚が水面から出てきたが、仕掛けから逃げ出して、ぽちゃんと音を立てて逃げていった。
「俺の目的はさぁ〜、綺麗な川で美味しい魚を釣る事なんだよね。たしかにザークさんの言う通り、環境が改善されるならそれでいいって感じです」
・・・この人の目的って、それなの!?魚!?
「ありがとう、トキタビ」
気が付けば辺りは暗くなっていた。
「ただ、夜になっちゃったんで、転移出来るのは明日ですよ?」
トキタビが言う。
「どういう事?」
僕はここで初めてトキタビに口を開いた。
「俺の魔法はさぁ、俺の目が見えている範囲に飛ぶことが出来るワケなのね。王都まではここから明るい時に見えるキッテン山の山頂に飛んで、そこから山頂から王都に飛べば一発なんだけど」
「制約があるんだね」
「あとさぁ、多分朝霧が凄いから山頂は隠れちゃうと思う。とりあえず次の日には王都には行けるよ。ギリ間に合わない感じかな」
間に合わないのか!
いや、でもこの男の力を頼らなければ、間に合わないどころの話じゃない!
それにしても、このトキタビって人、見た目や態度に反して随分頭がキレるなあ。
「ね、ねぇ、トキタビさんはチートみたいなもの、あるの?実は僕も異世界から来た転生者なんだ」
僕は自分の正体を明かす。
トキタビは再び驚いた表情を見せた。
「驚いたなぁ。俺の能力はさぁ〜、凄い頭が良くなる力なんだ」
凄い頭が良くなる力!?
「トキタビはその頭の良さで、力の結晶から魔法を編み出し、そして空間転移の魔法を作り出したんだ」
ザークが解説した。
「ピエスパさんが進めていた研究をトキタビはいとも容易く手に入れたってわけだ」
す、すごい人だ・・・
僕も頭は良くなりたい!
そうして、翌日。
僕たちはトキタビの魔法で王都へ向かったんだ。




