32話 頼もしい奴
「説明しろビゼ」
間合いを取る。
いつのまにか周りにいた人がいなくなっている。
数人が倒れていた。
シズカの姿は見えない。
「アタイさ・・・」
ビゼは革のグローブを外した。
右手に刻印・・・こいつ・・・
「お前、ノイズ派だったのか」
「そういうこと」
ビゼは1本目のナイフを俺に向けて投げてきた。
俺は剣で弾く。
ええっと・・・たしかこれが4本目と繋がっていたはずだ。
「お前の思考が全く分からない」
「アタイの目的はテロの遂行。アンタらは目的じゃない」
ビゼはグローブを捨てた。
「いつ殺そうが、いつ離れようが、そんなのは関係なかった。たまたま道が一緒だっただけ」
備蓄庫のカギ・・・あれは兵士が持っていたものじゃないのか。
兵士から剥ぎ取った様に見せて、ビゼが・・・元々持っていたもの。
「元々ここに来る予定だったのか」
「そうだよ」
「俺たちが戦う理由は無い。ノイズ派の事なんか知らないが、俺もお前もあの城に用事があるだけだろ?」
ビゼがノイズ派だった事は驚いてはいるが、別にこれは問題じゃない。
俺はただあの男に会う、それが目的だ。
「フレデリック。アタイの仲間を地下水道で殺したろ?」
「なにっ!?」
「アタイらはあそこで落ち合う予定だった。もしそこで会えなければ、あのボロ小屋で落ち合うはずだった。色々察したさ。地下水道を歩いたあの時、アンタが殺したってね。その報復。それが理由さっ!」
素早い。
ビゼ。頼もしい奴が敵になるってのは、困ったもんだ。
でも、容赦出来ない。
身を捻りながら近くビゼに俺は構えを取る。
この間合いに近づいた時・・・その華奢な身体は2つになる。
ビゼの顔が近づく。
距離は十分だ。
腕を、筋肉を!動かせ!俺!
「一緒に旅をした同情かよ?」
ビゼが挑発する。
俺はビゼを蹴り飛ばし、退いていた。
斬れたはずなのに、それが出来ない。
ビゼは蹴り飛ばされても、猫のように落下の体制を整えて平然としている。
こいつ、やっぱり凄いな。
「フレデリック。アンタには悪いが、アタイには目的や境遇ってもんがある。アタイは容赦しない。アンタは容赦してる。これは戦力差を埋める大きなハンデになる」
ビゼが落ちていた1本目のナイフを回収する。
そして、4本のナイフを両手で2本ずつ指に挟む。
カニのような不格好なのに器用な持ち方だ。
そう、関心する間も無く、ビゼが向かってくる。
容赦?俺は容赦しているのか?
馬鹿を言うな・・・
剣を構える。
俺にとっても、お前は目的じゃない。
猫の様なスタイルでビゼが飛びかかってきた。
さながら猫の爪の様に素早く両手が飛んでくる。
俺はそれを全て剣で弾く。
弾いても弾いても、何度もその爪が俺に襲いかかる。
なんて握力だ!
普通、指に挟んだナイフなんて剣とぶつかった衝撃で手から抜けるのに!
一歩下がったビゼが再び勢いをつけてきた。
ぐっ、っと走り込んでくるビゼ。
剣を構えた瞬間、ビゼは俺の股下を潜った。
俺の視界からビゼが消えた後、すぐ、俺の背中が切り裂かれた。
回避行動をとる。
傷は浅い。
「ビゼ。お前、凄えな」
見事なフェイント・・・
「アンタもな」
出来れば、この女を・・・
理由がどうであれ・・・
マーヤが育てたこの女の子を・・・
傷付けたくはない。
ただ、攻撃を受けた俺の本能はそれを拒んでいた。
背中の傷、その痛みが俺の戦いの記憶、感覚を取り戻しつつある。
俺はいつものように足をぐっと、動かし、地面を蹴り、ビゼの首を掴んでいた。
何が起こったのか、分からないような顔をするビゼ。
その細い首筋には少しずつ血管が浮き出している。
「悪いなビゼ。俺にだって目的や境遇がある」
俺はビゼの首を絞める。
こんな身軽な女の首は片手の握力で十分だった。
英雄を舐めるな。
俺がどれだけの戦いを切り抜け、鍛錬してきたと思っている・・・
「ゔ・・・」
さっきまで握っていたナイフが手から離れていく。
もう、一度壊し始めたら、それまでだった。
ビゼ。産まれは選べない。
人生の選択を誤った。
お前がどういう過程で生きて、どういう思想でノイズ派に入ったのかは知らない。
お前の仲間を殺した事についても
俺は何とも、思ってないさ。
その時、俺の腕に矢が刺さる。
一瞬の緩みを逃さないビゼが逃げ出す。
「何を、やってるの」
掠れた声で、シズカが立っている。




