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その座を奪われた主人公   作者: 大野春
第四章 頼もしい奴
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32話 頼もしい奴


「説明しろビゼ」


間合いを取る。

いつのまにか周りにいた人がいなくなっている。

数人が倒れていた。

シズカの姿は見えない。


「アタイさ・・・」

ビゼは革のグローブを外した。

右手に刻印・・・こいつ・・・


「お前、ノイズ派だったのか」

「そういうこと」


ビゼは1本目のナイフを俺に向けて投げてきた。

俺は剣で弾く。

ええっと・・・たしかこれが4本目と繋がっていたはずだ。


「お前の思考が全く分からない」


「アタイの目的はテロの遂行。アンタらは目的じゃない」

ビゼはグローブを捨てた。


「いつ殺そうが、いつ離れようが、そんなのは関係なかった。たまたま道が一緒だっただけ」


備蓄庫のカギ・・・あれは兵士が持っていたものじゃないのか。

兵士から剥ぎ取った様に見せて、ビゼが・・・元々持っていたもの。


「元々ここに来る予定だったのか」

「そうだよ」



「俺たちが戦う理由は無い。ノイズ派の事なんか知らないが、俺もお前もあの城に用事があるだけだろ?」

ビゼがノイズ派だった事は驚いてはいるが、別にこれは問題じゃない。

俺はただあの男に会う、それが目的だ。




「フレデリック。アタイの仲間を地下水道で殺したろ?」



「なにっ!?」



「アタイらはあそこで落ち合う予定だった。もしそこで会えなければ、あのボロ小屋で落ち合うはずだった。色々察したさ。地下水道を歩いたあの時、アンタが殺したってね。その報復。それが理由さっ!」



素早い。

ビゼ。頼もしい奴が敵になるってのは、困ったもんだ。

でも、容赦出来ない。

身を捻りながら近くビゼに俺は構えを取る。

この間合いに近づいた時・・・その華奢な身体は2つになる。


ビゼの顔が近づく。

距離は十分だ。


腕を、筋肉を!動かせ!俺!


「一緒に旅をした同情かよ?」

ビゼが挑発する。

俺はビゼを蹴り飛ばし、退いていた。


斬れたはずなのに、それが出来ない。


ビゼは蹴り飛ばされても、猫のように落下の体制を整えて平然としている。

こいつ、やっぱり凄いな。


「フレデリック。アンタには悪いが、アタイには目的や境遇ってもんがある。アタイは容赦しない。アンタは容赦してる。これは戦力差を埋める大きなハンデになる」


ビゼが落ちていた1本目のナイフを回収する。

そして、4本のナイフを両手で2本ずつ指に挟む。

カニのような不格好なのに器用な持ち方だ。

そう、関心する間も無く、ビゼが向かってくる。


容赦?俺は容赦しているのか?


馬鹿を言うな・・・


剣を構える。

俺にとっても、お前は目的じゃない。


猫の様なスタイルでビゼが飛びかかってきた。

さながら猫の爪の様に素早く両手が飛んでくる。

俺はそれを全て剣で弾く。

弾いても弾いても、何度もその爪が俺に襲いかかる。

なんて握力だ!

普通、指に挟んだナイフなんて剣とぶつかった衝撃で手から抜けるのに!


一歩下がったビゼが再び勢いをつけてきた。

ぐっ、っと走り込んでくるビゼ。


剣を構えた瞬間、ビゼは俺の股下を潜った。

俺の視界からビゼが消えた後、すぐ、俺の背中が切り裂かれた。

回避行動をとる。

傷は浅い。


「ビゼ。お前、凄えな」

見事なフェイント・・・


「アンタもな」


出来れば、この女を・・・


理由がどうであれ・・・

マーヤが育てたこの女の子を・・・



傷付けたくはない。



ただ、攻撃を受けた俺の本能はそれを拒んでいた。

背中の傷、その痛みが俺の戦いの記憶、感覚を取り戻しつつある。


俺はいつものように足をぐっと、動かし、地面を蹴り、ビゼの首を掴んでいた。


何が起こったのか、分からないような顔をするビゼ。

その細い首筋には少しずつ血管が浮き出している。


「悪いなビゼ。俺にだって目的や境遇がある」


俺はビゼの首を絞める。

こんな身軽な女の首は片手の握力で十分だった。


英雄を舐めるな。


俺がどれだけの戦いを切り抜け、鍛錬してきたと思っている・・・


「ゔ・・・」

さっきまで握っていたナイフが手から離れていく。

もう、一度壊し始めたら、それまでだった。


ビゼ。産まれは選べない。

人生の選択を誤った。

お前がどういう過程で生きて、どういう思想でノイズ派に入ったのかは知らない。


お前の仲間を殺した事についても

俺は何とも、思ってないさ。



その時、俺の腕に矢が刺さる。

一瞬の緩みを逃さないビゼが逃げ出す。



「何を、やってるの」



掠れた声で、シズカが立っている。




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