28話 無視をする英雄
《ムジーク王国ールシンバ》
「ここでお別れだ。マーヤ」
俺はマーヤに別れを告げる。
ルシンバの駅のホーム。
マーヤもここで降りる。
「フレデリック様・・・まさか王都へ向かわれるのですか?」
「そうだ。あの男に一発お見舞いしないとならない」
俺は心底怒っていた。
自分の弱さに。
変わってしまった人や、それの被害を受けてしまった人がいる事に。
「・・・アタイはもうアンタに用はない。まぁ、強いて言うなら、育てて貰った恩は一応、忘れない」
目の前のビゼがどんなに辛い思いを堪えているのか、俺には分からない。
ただ、コイツは強い。俺はこの女の芯の強さを感じた。
売られる寸前だったのか。通りで野グソをして、下半身を晒しても恥ずかしがらないわけだ。
「どうか、ご無事で・・・」
「マーヤ。この国があるべき姿を取り戻したら、足を洗え」
そう言って、俺たち3人はマーヤを置いて歩き出した。
「フレデリックさん、良かったの?」
面倒な質問をするシズカ。
それを無視する。
ーーーーー
このルシンバは王都から連なる街で、区画で別れているだけ、もはや王都と言っても過言ではない。駅から東へ30分も歩けば王都ピアノの西地区に到達する。
事前の情報が間違いない事を確かめる為、まずはその区画の境まで歩く。
【ノイズ派活動激化により、王都への往来を禁止する】と沢山の貼り紙がある。
兵士が道という道を塞いでいた。
ピエスパ曰く、結界が張ってあるとの事だが、その壁のようなものは確認出来ない。
透明だと言っていた事を思い出すが、それを確認する術は無かった。
とにかく、結界がどうであれ、兵士がいる以上王都への侵入は難しい。
「計画通り、地下水道を通るぞ」
シズカとビゼに伝える。
俺たちは来た道を戻りながら、街中の曲がりくねった道を進んでいく。
建物が新しく、見たことのない景色ばかりだが、道は変わっていなかった。
これは幸いだ。
「不自然なくらい、変わりのない景色だ」
たどり着いたそこはあまり目にも止められないような広場で、その片隅に無人の〝国営備蓄庫〟がある。
備蓄庫はこの王都内外に複数あり、全てが地下水道へ繋がっている。
これは俺の時代では当たり前なのだが、ピエスパ曰く秘匿事項だと言う。
「ここから入れるの?」とシズカ。
「ああ」
引戸の備蓄庫には鍵がかかっている。
鎖で繋がれている。
「フレデリックさぁ、カギ持ってんの?」
「そんなものは必要ない」
俺は剣を抜く。
鎖に剣の先を差し込み、力を込めて引き抜いた。
こんな劣化した鎖、斬る事は容易い・・・ということもなかった。
「あれ?」
俺は格好をつけて、剣で鎖を切るつもりだった。
しかし、思った以上に硬い。
俺が現役の頃は、敵の鎧ごとぶっちぎってたんだぞ!
「え、ダサ」とシズカ。
「何やってんのよ」とビゼ。
とてつもなく、恥ずかしい。
「まぁ待て。もう一回・・・」
引き抜く力では不安な俺は、鎖に向かって思いっきり斬りかかる。同じミスは出来ない!英雄だぞ!俺は!
ガチン!
「あ、あれれ・・・」
「ちょっと幸先悪くない?」
「元英雄なんだよね?」
「他の方法試さない?」
「いや、斬る!」
ーと、俺がもう一度剣を振り上げた時。
「貴様ら!何をしている!!!!」
王都の兵士が現れる。
やべえ!見つかった!
おそらくこの兵士は地下水道の事は知らないはずだ。
しかし、見つかった以上、やる・・・殺るしかない。
「貴様ら!ノイズ派か!?」
兵士が槍を俺たちに向けている。
1対3だ。有利な戦いになるはずだ。
「ノイズ派ではない!」
「ここで何をしている!?」
「備蓄庫の食糧が欲しかっただけだ!」
「貴様!なぜ備蓄庫に食糧がある事を知っている!?」
「なぁっ!やっちまった!」
ぐっ、と足に力を込める。先手必勝だ。
俺は兵士を斬りかかる間合いに入る。
勢いをつけ、剣を振る!
決まった・・・!
と思ったら、俺の理解を超える動きで、一歩後退りをする。
こいつ、足も動かさずに・・・どうやって!?
「蒸気の靴を履いてるぜコイツ!」
ビゼが兵士の足元を指差す。
そうか、50年も経てば防具も進化しているのか。
感心してしまう俺。
しかし、ここで負ける訳にはいかない。
恥ずかしいところを女に見られている。
ここで名誉挽回だ!




